若葉の美しい季節になりました。陽気に恵まれた晴天の日と、ひんやりとした雨の日、交互に繰り返される光と水、陰陽の見事なバランスが、植物たちを、ぐんぐん成長させていくかのようです。節気は穀雨に入り、色さまざまな芽吹きや初夏を待つ花のつぼみが、春のクライマックスを告げています。
山椒の若葉も、この数週間でみるみるうちに大きくなって、若草色の美しい葉を広げ始めました。日本では、木の芽といえば、この季節の山椒の葉をさし、木の芽和えの清々しい香りは、この季節の清涼感をそのまま表しているかのようです。
以前、豆腐のコラムでも書きましたが、「木の芽田楽」は、江戸時代の料理本『豆腐百珍』の筆頭に上げられている大人気レシピです。「青寄せ」という技法はこの頃からあって、木の芽だけで緑を出そうとすると辛過ぎてしまうため、青菜を使って色を足します。
生のほうれん草や小松菜をすり潰し、それを湯を入れて火にかけると、緑の色素が浮いてきます。その色素を白みそに練り込んだものが「木の芽みそ」です。手間がかかるため、料亭や割烹で供されることが多いご馳走ですが、素晴らしい日本の伝統料理といえます。
山椒は『古事記』に登場する日本最古の香辛料。山椒は顔をしかめるほど辛いことから、はじかみと呼ばれ、のちに中国から輸入された生姜は、山椒の和のはじかみに対して、くれ(呉)のはじかみと呼ばれていたようです。舌がしびれるように感じるのは麻酔効果のあるサンショール。抗菌作用が強く、胃腸の調子を整える働きがあります。
とくに冷えからくる腹痛や、食欲不振、生理痛にもいいようです。この季節はつい薄着をして、身体を冷やしてしまうことも少なくありません。山椒は古くから漢方薬に使われているように、豊富な精油を含み、さまざまな薬効があります。
以前、ご紹介した七味唐辛子にも入っていますし、ちりめんじゃこと実山椒を合わせたちりめん山椒、鰻の風味を引き立たせる粉山椒など、山椒はなくてはならない日本のスパイス。筍との相性もよく、筍の木の芽和えはこの季節の風物です。
青葉、若葉の生命力に包まれるこの季節を愛しみながら、シンプルなわかめのすまし汁など、吸い口に一枚、木の芽を浮かべてみませんか。