

師走は四時(しいじ)が果てる「しはつる」から転じた月。四時という言葉は現代ではあまり目にしませんが、昔の文献にはよく出てきます。私はこの四時という言葉が好きです。春、夏、秋、冬を昔の人は、四つの時として感じていたのです。師走は四つの季節がめぐり、果てる月というわけです。毎年、新暦で迎えるお正月は比較的穏やかで、初詣日和ともいいたくなる清々しい晴天に恵まれることが多いのですが、本格的な寒さはこれからです。
季節は1月6日に小寒に入りました。小寒と大寒の約三十日間が「寒の内」です。2月の節分が過ぎると寒明けです。いかがですか? 師走がイメージできますでしょうか。冬至は過ぎましたが、大地があたたまるには1ヶ月半ほどかかるため、却って冷え込みがきつくなります。「初春のお慶びを申し上げます」という年賀状の決まり言葉は、和暦の元旦が現在の2月頃であったことの名残りなのです。このコラムでは日本古来の暦にしたがって、月名の由来と実際の季節感を重ねて味わっていただけたらとおもいます。
師走の別名、雪月。真っ白な静けさに包まれる清々しい朝。空気を含んで積もる雪は音を吸い取ります。この消音効果には雪華(せっか)と呼ばれる六角形の結晶の形も影響しているそうです。昔の人々は空から舞い降りる雪を花に見立てたり、土地の精霊が降らせる豊作の前兆として見ていました。それを代表する和歌がこの一首です。
冬ながら空より花の散りくるは 雲のあなたは春にやあるらむ 清原深養父
雪を花に見立てた和歌は多く、高貴な香りを放つ梅に対して、雪には「不香の花」という呼び名があります。冬には冬の明るさがあり、春を待つという喜びがあります。人々は雪の中にはっきりと希望をみてきたのです。
雪ふれば木ごとに花ぞさきにける いづれを梅とわきてをらまし 万葉集
雪ふれば冬ごもりせる草も木も 春にしられぬ花ぞさきける 紀貫之
雪明かりも美しいものです。日本の冬には静けさと明るさがあります。白茶になった枯野も乾いた青い空によく映え、大地を明るくみせてくれます。冬は決して暗くはありません。この季節の楽しみは冬芽。木々はすでに春を感じて、つぼみを大きくふくらませています。
近年、雪解け水には種子の発芽を促し、鶏の産卵率を高めるなど、あらゆる動植物を活性化することが実証されています。七十二候の最終候は「にわとりとやにつく」ですが、これは春の気配を感じた鶏が卵を生み始めることを表した言葉です。現在は養鶏場で管理され、安定供給されている鶏卵ですが、昔は鶏が卵を抱き始め姿をみて、人々の顔もどんなにかほころんだことでしょう。
