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第74回 台湾の元宵節-台湾燈節と十份天燈

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元宵節 in 台湾

 旧暦の正月15日は日本では小正月、中国などでは元宵節(げんしょうせつ)とよばれています。長崎では近年、ランタンフェスティバルが盛大におこなわれ、街全体が赤一色で彩られます。中国獅子舞、龍踊り、あるいは媽祖(まそ)行列、皇帝パレードなど多彩な行事もくりひろげられます。旧暦の15日ですから、十五夜、つまり満月の晩というわけで、空を見上げて月が見えれば、さらに心も満たされます。

 一昨年の長崎に味をしめて、今年は台湾まで元宵節を楽しみに行ってきました。台北ではおりしも花博円山園区で台北燈節がひらかれており、千変万化のイルミネーションに照らされた福禄猿のメインランタンが入口に陣取っていました。それは申年のヒーローでもある孫悟空に擬せられ、街と市民に福をもたらす存在として人気がありました。また全国ランタンコンテストの優秀作品が並べられ、青森のねぶたを思いだしました。特設ステージではパフォーマンスもおこなわれ、燈節会場はたくさんの人たちでごったがえし、満月に近い月も雲間にときどき顔を出していました。

「見ろ、聞け、言え」の三猿

 台北燈節には三猿も姿をあらわしていました(本コラム第72回「十二支の申―猿文化の古今東西」参照)。一匹は色眼鏡をかけ、もう一匹はイヤホンを耳に当て、最後の一匹はメガホンを口にしていました。主催者側に確認したところ、「見ろ、聞け、言え」のタイプの逆さ三猿であることが判明しました。ランタンフェスティバルをしっかり楽しんでくださいというユーモアだそうです。

願いを込めたランタン飛ばし

 しかし、台湾のランタンを特徴づけるもっとも有名なイベントは「ランタン飛ばし」とよばれる天燈(諸葛孔明が発明したとされる孔明燈)を空に放つ行事です。なかでも台北郊外の山中に位置する十份のそれは元宵節にあわせて実施され、観光の目玉として近年とみに人気が高まっています。天燈とは熱気球のようなもので、袋状の紙製ランタンの下方にある火種に火をともし、その熱気で空中に上るしかけになっています。天燈には無病息災、家族平安、Happy New Yearなどの願い事が書かれ、天に届けられるのです。まさに天と地を結ぶ通信手段として古来つかわれてきたモノにほかなりません。ただし、今は、火災を避けるため、都会や軍事施設から遠いところでしか許されなくなっています。また寸法や燃焼時間、飛距離にも制限が加えられています。

天燈の楽しみ方

 わたしが天燈を知るきっかけとなったのは2010年におこなわれた上海万博のときの台湾館です。その形状は下すぼみの天燈を模したもので、実際夜になると、ランタンのように内部から光り輝いていました。パビリオンのなかに入れた人はモニターのタッチパネルで願いを選択し、それがデジタル化されて天井に映し出されるというしかけとなっていました。わたしも台湾館への入場を試みたのですが、1日4000人に制限されていたうえ、整理券もあっというまになくなるという盛況ぶりで、願いは天に届くどころか、入口であっさり拒否されてしまいました。

 今回も天燈申し込みの整理券は当日午前11時から配布されるとのことで機会を失しました。十份広場から一斉に天燈を放つ時間にも間に合いませんでした。しかし、夜空に点々と浮かぶ天燈だけは確認できました。それで十分満足すべきなのでしょう。

【参考文献】
陳天璽「祈りと安らぎの未来空間―2010年上海万博・台湾館」中牧弘允編『上海万博の経営人類学的研究』(科学研究費補助金研究成果報告書)、国立民族学博物館、2012年、57—64頁。

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中牧弘允

文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。

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