こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「むかごご飯」のお話です。
実家から野菜便が届いた。段ボールを開け、それぞれの野菜を取り出していくと、小さな紙袋が見つかった。手に取ると、シャカシャカと可愛らしい音がする。開けると、コロコロと丸いむかごが入っていた。「おお、今年もこの季節が来たのか」と、思わず顔がほころぶ。
「むかご」は、山の芋や自然薯などのツルにできる、直径1〜2センチほどの「肉芽(にくが)」のこと。葉の付け根に養分が蓄えられてできるもので、ジャガイモのように地中ではなく地上部に実ることから「地上にできる小さな芋」とも呼ばれる。
むかごに馴染みのある家庭はどれくらいあるのだろう。
私の地元・山口県柳井市では、かつて「山でしか採れない」と言われていた自然薯の人工栽培に世界で初めて成功した歴史があり、祖母も生産組合の一員として熱心に栽培に携わっていた。
そんな環境だったから、実家では毎年秋になると当たり前のようにむかごを食べる機会があった。当時はちょっぴり地味なその味がそこまで好きではなかったけれど、大人になった今では、季節の訪れを告げてくれる、愛おしい恵みとなっている。
むかごは新鮮なうちにいただくのが一番。さっそく、むかごご飯を作ることにした。
作り方はいたってシンプル。むかごをさっと洗って汚れを落としたら、浸水させたお米にお酒と塩少々を加え、炊飯するだけ。蓋を開けると、湯気とともにふんわりと優しい土の香りが立ちこめる。
お茶碗によそって、ひと口いただく。ほくほくとした歯ざわりと、自然薯ならではの濃い旨みや独特の風味がぎゅっと詰まっている。そして、どこか懐かしい土の香りがふわりと鼻を抜けていく。
「ものすごく美味しいって訳じゃないんだけど、やっぱり秋になったら食べておかないとね」
むかごご飯は翌日には少し硬くなってしまう。炊き立てならではのささやかで、贅沢なご馳走。今この瞬間だけの、まさに一瞬の旬を楽しむ料理なのだ。
むかごご飯を口にしながら、秋の夕暮れの中、ひらひらとしたハート型の葉の付け根にむかごがたわわに実る畑の光景が思い浮かぶ。そこで汗を流していた祖母の姿が蘇ってきた。
むかごの季節が過ぎると、次は本番の自然薯がやってくる。
「昔は自然薯は、山から採ってくるものだったんよ。正月の仕事がない時だけ、おじいちゃんが山に掘りに行ってくれていた、贅沢品だったんよ」
そういえば祖母は、懐かしそうに笑って話してくれていた。子どもの頃はただの昔話として聞いていた。けれど今、こうして自分で料理をして季節の味に向き合っていると、山から畑へ、そして孫の私の食卓へと、脈々と受け継がれてきた営みが胸に沁みる。
今年も美味しい秋を、たんと味わって過ごしていこう。

庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
