全国カレンダー展
全国カレンダー展は戦後間もない1950年にはじまりました。当初は日本印刷工業会、印刷時報社が主催し、通商産業省が後援するという形をとっていました。いまは日本印刷産業連合会(日印産連)が産経新聞社と主催するコンクールとなっています。日印産連は1985年に印刷産業10団体が結集して設立されました。全国カレンダー展は、カレンダーの印刷技術や企画・デザイン力、あるいは機能性や実用性に優れた作品を公開することにより、文化向上に寄与することをめざしています。毎年、作品を公募し、審査がおこなわれ、東京と大阪で展示会が開催されています。

かつて全国カレンダー展の作品は『カレンダーの研究』(印刷時報社)に掲載されていました。その分析から西洋絵画、とりわけルノアールの作品が人気を博していたことを本コラムでも紹介しました(第87回参照)。その後、『カレンダーの研究』は『カレンダー年鑑』(日本印刷新聞社)を経て、いまでは『CALRNDAR DESIGN―カレンダーデザイン』(産経新聞社)に引き継がれています。またネットでも一部公開されています。

募集部門や審査基準など
カレンダーの対象は実用に供されるもので、日本の印刷会社が受注または印刷したものに限ります。募集部門は3つに分かれ、第1部門はBtoB向け企業カレンダー(企業・団体に配布するカレンダー)、第2部門がBtoC向けカレンダー(一般消費者に配布するカレンダー)、第3部門が出版・小売販売・既成カレンダーです。審査基準も3つに大別され、次のように規定されています。
- *印刷製品として印刷技術にとくに優れ、基本条件として印刷品質が水準以上に達していると認められたもの。
- *デザインと実用性の調和がとれており、カレンダーとしての機能を発揮していると認められたもの。
- *企画・デザインあるいは印刷・加工技術、素材活用、メディア展開において創造性に富み、将来に示唆を与えると認められたもの。
審査委員会は後援団体、クリエイティブ関係/学識経験者、広告関係代表、消費者代表、印刷関係代表から構成され、2024年には18名を数えました。
受賞カレンダーと展示会
2024年の場合、応募総数は439点で、3つの各部門で上位賞、特別賞、部門賞、奨励賞あわせて69点が選ばれました。上位賞には経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、経済産業省商務情報政策局長賞があり、特別賞には国立印刷局理事長賞、日本商工会議所会頭賞、日本製紙連合会賞など10の団体等が名を連ねています。部門賞には金賞と銀賞があり、最後に実行委員会奨励賞となっています。これら入選作品の表彰式は1月22日に日本印刷会館でおこなわれ、その後東京サンケイビルと平和紙業ペーパーボイス大阪でそれぞれ1月29日から2月2日と2月20日から2月29日の会期で展示されました。
2024年の受賞カレンダー
第1部門の経済産業大臣賞はニッスイ・カレンダーの特装版でした。同社が昭和初期に作成した「魚譜」の原色描画が採用されていて、その繊細かつ上品な美しさが評価されました。第2部門で経済産業大臣賞に輝いたのは、ミサワホームの「アンリ・マティスの生涯と筆跡カレンダー」でした。同社は毎年、偉人の筆跡カレンダーを作成し、上位賞の常連となっています。近年ではモネ、ルノワール、ショパン、ベートーヴェン、ゴーギャン、カンディンスキー、ダヴィンチ等の筆跡が選ばれています。第3部門の経済産業大臣賞には若手アーティストによる「ennui(気だるさ)」が採択されました。発行はDNPコミュニケーションデザインです。写真のような写実性とミステリアスな非日常性を暦に取り込んだ点が好評を博しました。日付やタイトル部分の色もすべて異なる配色です。ちなみに、以上3点はたまたま大日本印刷(DNP)の制作でしたが、同じ最大手のTOPPANと拮抗し、光村印刷や共同印刷などの大手が割り込んでいます。



【参考文献】
サンケイアイ編集・制作『CALRNDAR DESIGN 2024―カレンダーデザイン 2024』、産経新聞社、2024年。

中牧弘允
文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。