あをによし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり
現代語訳:青丹が美しい奈良の都は、咲く花がかがやくように、今が真っ盛りだ。
この歌は、729年に大宰府の次官として着任した貴族、小野老(おののおゆ)が、奈良の都を想って詠んだ歌です。小野老は前年の春に都に上っており、そのとき目にした都の華やかさが忘れられなくて、最大級の褒め言葉で都の美しさを表現したと伝えられています。
冒頭の「あをに(青丹)よし」とは「奈良」にかかる枕詞で、「青丹吉」とも書きます。「あおに(青丹)」とは、顔料として使われていた青黒い土のこと。奈良はもともと良質な青丹が採れる産地として有名でした。加えて、当時の都は赤色(平城京の朱色)や青色(木々の緑)で彩られていたことから、奈良の美しさを表現する言葉として「あをによし」という枕詞が生まれたそうです。
さらに、「にほふ」は花が香るという嗅覚のことだけではなく、花が盛りで生命力に溢れている様子を、都の雰囲気に重ねているとも解釈されています。
また、当時は藤原氏の勢いが増し、いよいよ政治の実権を握ろうとしていた頃でもありました。「盛り」には、そんな藤原氏の繁栄を表す意味も込められているとも言われています。
いずれにせよ、彩り豊かな都の様子が伝わってくる歌ですね。
当時の気持ちを味わってみたくて、私も実際に平城京があった場所を歩いてみました。

ここは、朱雀大路に向かって開く平城宮の正門「朱雀門」。復元された建物で、この広場は当時、祝祭の場として活用されていたそうです。今では、朝はランニングや散歩をしている人で賑わい、昼間は子どもたちが走り回って遊んでいる、地元の人たちの憩いの場になっています。


今の季節は、朱雀門を囲むようにヤナギの木々が揺れています。
ツツジなど季節の花も咲きはじめて、東側を見ると青々と茂る若草山をたのしむこともできます。



この場所に立つと、この歌を詠んだ小野老の気持ちがほんのすこしだけ分かるような気がしました。平城京の建物や植物たちの鮮やかさに、広い空。そこに人々の賑わいや鳥たちのさえずりが加わった高揚感を「あをによし」という言葉に込めたのかなぁ...と。

同時に、遠く離れた太宰府に左遷された悲しみや嘆きの気持ちもあったのだろうと思います。藤原氏の繁栄を、もどかしい思いで見つめていたのかもしれない。同じ空を見ながら、「早く帰りたい」という都への強い想いがあったのだろうと思うと、歌に込められた切ない余韻が広がり、じーんとしました。

最終的に、小野老は大宰府の役人を長くつとめ、8年後に大宰府で亡くなったといいます。
都に戻ることは叶わなかったものの、彼の想いは1300年を経たいまも、この場所を訪れる人々の心に寄り添い続けていることを願っています。
写真提供:高根恭子
参考
新村 出『広辞苑 第三版』 岩波書店(1983年)

高根恭子
うつわ屋 店主・ライター
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
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