こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
春のうららかな日差しを浴びながら、心地よく近所を散歩していると、どこからか不思議な音が聞こえてきました。
「ビーン、ビーン、キリコロコロ...」
この声は...と思いながら音が聞こえてくる方に視線を向けると、電線にとまって鳴いている小鳥を発見。カワラヒワです。

カワラヒワは、全長15cmとスズメとほぼ同じ大きさの小鳥で、日本では九州以北の平地に一年中生息します。ただ、積雪が多い地方の鳥は、雪が積もると姿を消してしまいます。おそらく雪が積もると食べものがとれなくなるので、積雪がない暖かい地方へ行ってしまうのでしょう。その証拠に、標識調査の結果を見ると、北海道で足環をつけられた鳥が、石川県へ移動している例がありました。

体の色は、全体的に緑がかった茶色の鳥で、飛ぶと翼に鮮やかな黄色の斑が出てとてもきれいです。オスとメスはだいたい同じような色彩なのですが、メスはオスよりもかなり淡い感じです。近くで見ると、ピンク色の太い嘴が目立ちます。カワラヒワの主食は植物の種子で、この太い嘴で堅い種子を割って中身を食べてしまいます。

名前のイメージでは、河原にいるヒワと思いますが、河原限定というわけではありません。河原以外でも農耕地や市街地、公園などの開けた環境ならば普通に出会うことができます。食べものの種子さえあれば、河原に限らずという感じなんですね。ただ、確かに冬には、河原で大きな群れがみられるので、それ故の命名なのでしょう。ちなみに、この名前は安土桃山時代にはあったそうです。

カワラヒワの繁殖期は他の多くの鳥より少し早めに始まり、2月末には電線にとまって鳴いている鳥に出会うようになります。たいていは「キリコロコロ...」と鈴を転がすような声で鳴きますが、ときどき「ビーン、ビーン」と鳴き続ける鳥がいることがあります。

これはつがいになれなかった独身オス。カワラヒワの世界では、順位の高いオスはメスとつがいになれるのですが、あぶれてしまったオスは、そんなつがいのそばで、事故でオスが死んでしまったり、離婚するなどしてメスが独り身になるのを待っているんだそうです。「ビーン、ビーン」と鳴いて一生懸命に存在をアピールし、つがいになれるチャンスをうかがっているのです。私は、そんな鳥をイギリスのコメディアンになぞらえて「ミスター・ビーン」と愛着を込めて呼んでいます。

繁殖が終わり、夏が過ぎて秋になると、カワラヒワは大きな群れを作ります。ときには100羽を越える大集団となることがあり、電線にずらっと並ぶ光景はなかなか圧巻です。また、ちょうどその頃には、ロシア・カムチャツカ半島やサハリンで繁殖した、やや大型の亜種オオカワラヒワがたくさん越冬の為に日本へ渡ってきて加わるので、春から夏よりもカワラヒワを見かける機会がずっと増します。

最後に、カワラヒワの話題で是非、知ってほしいのがオガサワラカワラヒワの存在です。小笠原の島々にだけ生息するカワラヒワで、かつては亜種とされていましたが、今は別種であることが判明した日本固有種です。この25年くらいのあいだに個体数が10分の1に減ってしまい、現在の推定個体数はわずか200羽。日本の鳥の中でも最も危機的な状況の鳥なんです。

数が減った主な原因は、外来種であるクマネズミに食べられたことだといいます。シミュレーションの結果、このまま何もしないと、15年で絶滅する可能性が高いことがわかり、現在、環境省などによって保護増殖計画が実行され、絶滅を回避する試みがおこなわれています。なんとかこの危機を脱して、かつてのように島に行けばどこでも見られる鳥になってくれればいいのですが。
写真提供:柴田佳秀

柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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