兵庫県宝塚市・西谷のちまき
おいしいバトンをつなぐ −食文化を守る文化庁の取り組み−
風が柔らかくなる初夏、ふと笹の葉を包んだあの頃の香りが思い出されます。夏のはじまりの季節に感じるその香りは、私にとってはちまきの記憶を呼び起こしてくれるもの。もち米のやさしい甘みと、笹の葉の青い香り、そして可愛らしい三角錐。子どもの頃にほおばったちまきの味は、記憶のなかにいつまでも残っています。
そんな記憶に残る味を、次世代へとつないでいく取り組みが行われていることをご存知でしょうか。
文化庁の「100年フード」&「食文化ミュージアム」って?
文化庁では、令和3年度(2021年度)から「100年フード」と「食文化ミュージアム」の認定制度を通して、日本各地の地域に根ざした食文化や伝統食を応援しています。
「100年フード」とは、その土地で100年近く、あるいはそれ以上にわたって、世代を越えて親しまれてきた伝統的な食文化を中心に、文化庁が認定しているもの。たとえば、郷土料理、保存食、行事食なども含まれます。
もうひとつの「食文化ミュージアム」は、食文化に関する展示や保存、発信を行う施設(博物館、資料館、企業ミュージアム、道の駅など)を文化庁が認定し、食を通した学びや観光の拠点として活用していくというもの。展示資料を見るだけでなく、実際に体験やワークショップを通して食を学んだり、味わったりできる施設もあります。
地域の”記憶”を包む、宝塚市西谷地区のちまき
さて、そんな「100年フード」に認定された食文化のひとつに、兵庫県宝塚市の山あいにある西谷地区の「西谷ちまき」があります。
西谷は、宝塚市の北部に位置しており、かつては「西谷村」だったエリア。今でも棚田が広がり、初夏にはホタルが舞う、のどかな里山の風景が印象的な自然豊かな土地です。この地で、古くから作られてきたのが、「ナラガシワ」「ヨシ」「ガマ」の3種類の葉を使った非常に珍しいちまきです。
日本にはいろいろなちまきがありますが、和菓子店などで売られている一般的なちまきには、笹の葉で包んだものが多く、その他、チガヤや竹の皮を用いたものもあります。
西谷のように、ナラガシワ、ヨシ、ガマという3種類の植物が使われたちまきは、昭和初期ごろまでは西谷地区だけでなく、猪名川の上流域や武庫川の中流域のエリアでも作られていたようです。しかし、今では西谷地区以外ではほとんど見られない貴重なものに。
西谷のちまきは、粉にしたうるち米ともち米を6対4の割合で混ぜ、少量の塩を加えてこね、団子生地を円錐形にととのえたらナラガシワの葉で包み、さらにそれをヨシの葉でしっかりと包んで、ガマの葉で巻いて仕上げ、40分ほど茹でて作られます。
材料の採取から何日もかけて作り上げる、手間のかかるもの。
西谷では、ちまき用にと庭にナラガシワの木を植えている家庭もあり、また、米づくりが盛んな地域のため、豊作を願って神仏に対する信仰心が厚い土地柄。
端午の節供のお供えや、田植えで忙しい時期の保存食に、さらには田植え後の里帰りの際の手土産にも用いられるなど、地域の人々の暮らしとちまきのつながりが深かったため、こうして現在まで受け継いでこられたのかもしれません。
「伝えたい」を形にした保存会の活動
かつては各家庭で作られていたちまきですが、今では作り手の高齢化が進み、西谷でもあまり作られなくなった時期があったといいます。
そんな中、この味を絶やしたくないと動き出したのが、地元の皆さん。2015年ごろから、西谷ちまきの伝承活動をゼロから企画、作り上げていきました。
地元の盛り上がりが醸成してきた2018年には「西谷ちまき保存会」を発足し、さらに活動の輪を広げていくことに。
現在では、地域の団体や行政とも協力し、若い世代にちまき作りを伝える体験会を行うなど、いろいろな活動を通して、西谷ちまきの魅力を、大切に伝え続けています。
地域から広がる”食文化の灯火”
保存会の活動が実を結び、西谷ちまきは、令和2年(2020)には宝塚市の無形民俗文化財に指定され、さらに令和5年(2023)には文化庁の「100年フード」にも認定。
次世代の子どもたちに伝えていきたい郷土の誇りとして、宝塚の人々に浸透していきました。
こうした取り組みが目指すのは、単に古くからの食文化を保護継承するというだけではなく、地域の人々の誇りや、人と人とのつながりを再確認する機会にもなっていくこと。そして、次世代の子どもたちへと、その想いがつながっていくこと。
団子をこねた手の感触や、ちまきの葉を開くときのあのワクワクした気持ち。そんな体験のひとつひとつがきっと、未来へのバトンになってくれるのだと願っています。
取材協力:西谷ちまき保存会、一般社団法人宝塚青年会議所、宝塚市教育委員会
この連載では、全国各地の「100年フード」や「食文化ミュージアム」、そしてそれを支える人々の姿をご紹介していきます。次回以降も、どうぞお楽しみに。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。