年賀状の蛇
巳年の本年、届いた年賀状のなかに一風変わった、めずらしい蛇の写真や絵画が散見されました。意外だったのはペルー・アマゾンに暮らすクリーナ人(自称:マディハ)のこどもが描いたヘビの絵。黄色いヘビが緑の大地をわがもの顔で這いまわっているではありませんか。ブラジル・アマゾンで同民族の調査をしたとき、ヘビの話は聞いたこともなければ、こどもたちに描いてもらった絵にもその姿はみられませんでした。原典に当ってみると、キツツキの卵をねらうヘビが滴(したた)り落ちた木の脂(やに)で撃退されるという話でした。

他方、驚いたのは2mもあるニシキヘビを両手でかざして踊る、アフリカはザンビアのチェワ人の写真です(撮影:吉田憲司)。ニシキヘビは雨=豊穣をもたらしてくれる神のお使いだそうです。オーストラリアのアボリジニは虹蛇についての神話伝承をもっていますが、それを描いたシルクスクリーンの版画もありました。蒙(もう)を啓(ひら)かれたのは国宝の金印「漢委奴国王」のつまみ(鈕)が蛇だということ。その蛇は頭を持ち上げてふりかえる姿をしていて、鱗(うろこ)ではなく丸い魚子文(ななこもん)が捺(お)されていることでした。この金印をわたしはかつて福岡市博物館で実見しましたが、つまみにまでは気がまわりませんでした。インドのナーガ(コブラ)像や中国の玄武図(蛇と亀の組み合わせ)もありました。また天空のへびつかい座(Ophiuchus)も含まれていましたが、なんとチェワのヘビ踊りを彷彿(ほうふつ)とさせるではありませんか。



みんぱくの蛇
わたしの古巣、みんぱく(国立民族学博物館、通称:民博)にも多種多様の蛇が展示場に”鎮座“しています。年末年始には毎年のように十二支にまつわる展示やワークショップが開催されてきました。近年では干支の動物を探しにいくワークショップがメインですが、そのガイドマップには2017年から1年分のカレンダーが載るようになりました。1年間、民博をおもいだしてもらいたいという主旨です。今年のものもカレンダー面とワークシート面とで構成されていました。来館者はそれを頼りに約5kmの館内を一周することになります。


今年は6点のヘビが選ばれていて、見つけたらチェックを入れるようになっていました。そのラインアップは①ビーズの刺繍がほどこされたカメルーンのヘビの像、②5つの頭をもつインドのナーガ(コブラ)神、③あやつり人形に使われるミャンマーの金ピカのヘビ(ナーガ)、④台湾原住民族の伝説に登場する、長い牙をもつ毒蛇をあしらった衣装、⑤奉納物の絵馬に描かれたヘビ、⑥沖縄の弦楽器、三線(さんしん)の胴につかわれるニシキヘビの皮でした。参加者には②④⑥の写真付き缶バッジが記念として手渡されました。
みんぱくの干支カレンダー
みんぱくの干支カレンダーはこれまで7点が制作・配布されています。統一したデザイン・ポリシーは特になく、年月日のフォントも毎年バラバラです。しかし、いずれも担当者による創意工夫や試行錯誤のあとがみられ、労苦がしのばれます。たとえば手に持ちやすいようにA3を12折りにしたものが2年続きました。しかしながら、これだと展示場では便利ですが、家に持ち帰って飾るとなると折り目が気になります。そのため、すこし厚めの紙に印刷し、自宅でも使えるように、折りたたまないようになりました。また当初は特展や企画展の開催予定をカレンダーに表示していました。しかし、年末年始段階ではまだタイトルや日程が確定していないものもあり、手間との兼ね合いでイベント・カレンダーは姿を消しました。亥年にはイノシシの牙(きば)の飾りを選んでスタンプを多数つくり、それをポンポン捺したり、色鉛筆をつかったりして、人のからだを変身させるワークショップが考案されました。3択のクイズ形式が採択された年もありました。このように企画は融通無碍(ゆうずうむげ)ですが、著作権を侵害しないよう配慮することなど、博物館でつくる干支カレンダーにはそれなりに厳しい掟(おきて)も潜んでいるようです。

中牧弘允
文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。