大阪・関西万博のパビリオンのなかで何か暦に関する展示がないか物色してきましたが、ついにひとつ“発見”しました。たまたま中国館に入った直後に出くわした、と言ったほうがより的確かもしれません。
四季
まず目に入ったのが春夏秋冬のスクリーン映像です。おなじ田園風景―田と川、道と橋、木立と水車、山と雲―のアニメ映像が季節によってエンドレスに循環していました。春には籾撒きがおこなわれ、遠景には牛による田起こしも映っていました。はやくも田植えを始める農夫が数人。天秤棒を担いで肥桶を運ぶ人も通りかかります。夏になると本格的な田植えがはじまり、稲が育っていきます。そして秋には稲がたわわに実り、川には四つ手網で魚を捕る仕掛けがみられます。冬は雪景色一色で、子どもが田んぼで遊んでいます。水車は季節を問わずいつでも回っているようでした。この映像は中国の耕織図(耕作と機織りの図)、あるいはその発展型である日本の四季耕作図を想起させます。しかし、四季耕作図のように稲作の全過程を丹念に追っているわけではありません。
二十四節気
四季のスクリーン映像の後ろをふりかえると、漢字二文字に英訳がつく、二十四節気の巨大円形 モニターがあることに気づきました。たとえば、「夏至 げし Summer Solstice」とあり、セミが小枝にとまり、子どもたちが捕虫網で追いかけている様子が映し出されていました。「小暑 しょうしょ Miner Heat」の場面では、蓮の花が咲きほこり、池では子どもたちが泳いでいます。「立秋 りっしゅう Start of Autumn」になると、針葉樹は青々としていますが、広葉樹は黄色に色づき始め、その美しい紅葉を岩山にのぼって眺める大人たちが登場していました。
後から知ったことですが、2階に向かう回廊にはヘッドセットが用意されていて、装着すると、二十四節気の風景が立体的に浮かび上がり、今度は円形動画を上から楽しむことができるようになっていました。
三星堆の青銅神樹と秦始皇二十六年銅詔版
二十四節気と四季の動画コーナーのとなりには青銅神樹が展示されていました。神樹とは天と地をつなぐ神聖な樹のことです。1986年、中国・四川省の三星堆(さんせいたい)遺跡から青銅器製の巨大な神樹が出土し、修復後、三星堆博物館に収蔵されました。中国では“超有名な青銅器”らしく、今回の万博にはそのレプリカが出展されました。高さは4m近く、木の幹から枝が張り、その先端には神鳥がとまり、果実も実っています。また竜が下に向かって身をくねらせていました。秦に滅ぼされた古蜀の青銅器文化を代表する遺物として、また近年の中国考古学の成果を示すものとして選ばれたように思われます。
神樹の近くには秦の始皇帝の銅詔版も展示されていました。始皇帝は秦始皇26年(B.C.221年)に6国を統一し、度量衡を統一しました。銅詔版の字体も秦による文字の統一後に推進された字体とのことで、ガラスケースの壁面に大写しに表示されていました。
月面探査と海底探査
1階における古代中国の先進的文明に対応するかのように、2階には現代中国における先端的科学技術の進展ぶりが展示されていました。すなわち月面探査と海底探査です。2024年に無人の月面探査機「嫦娥(じょうが)6号」が月の裏側で採取した砂が陳列されていました。その向かい側には有人潜水艇「蛟竜(こうりゅう)号」をかたどったブースに海底探査で撮影された映像が流れていました。
中国館のテーマは、「自然と共に生きるコミュニティの構築ーグリーン発展の未来社会ー」です。パビリオンの外壁は古代中国の巻物「竹簡」を広げた形をモチーフにしています。自然に由来し、自然に順応し、自然と調和して生きる中国文化をアピールすることがねらいです。四季や二十四節気はそれにふさわしい自然観と言えるでしょう。しかし同時に、中国5000年の歴史と現代の最先端技術を示すことで国威発揚につなげていることも見逃すわけにはいきません。

中牧弘允
文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。