今日の読み物

お買い物

読み物

特集

カート内の商品数:
0
お支払金額合計:
0円(税込)

こよみの学校 第257回 万博とカレンダー③ 大阪・関西万博拾遺物語

この記事を
シェアする
  • X
  • facebook
  • B!
  • LINE

デジタル・カレンダー

70年大阪万博では紙媒体のイベントカレンダーしかありませんでしたが、大阪・関西万博では各種のイベントカレンダーがネットでも提供されました。公式ブログのナショナルデー&スペシャルデーカレンダーもそのひとつです。それは7ヵ国語(日本語、英語、簡体中文、繁体中文、ハングル、フランス語、スペイン語)で見ることができます。日にちのコマには国旗があしらわれていて、一目瞭然です。

イベントカレンダーとなると、日付、国旗、会場別に各種イベントがくわしく載っています。さらに催事施設マップや催事施設の写真のほかに、チケットのとりかたについても案内しています。

不定時法のタイム・トーン

万博会場には非常時の避難指示をおこなうために約600台のスピーカーが設置されています。それを活用して時報を知らせるタイム・トーンという音響作品が流れているとのこと。おどろいたことに、それは24時間制の定時法ではなく、夜明けと日暮れを基準とする不定時法を採用しているそうです。不定時法とは明治改暦で消えた時刻法です。夜明けから日暮れまでを6等分し、さらに日暮れから夜明けまでも6等分する十二辰刻とよばれる方式です。昼と夜の長さは春分と秋分の日以外はそれぞれ異なるので、季節の昼夜の長短に合わせた時刻法が不定時法です。それは古代から使用されてきましたが、江戸市中の「時の鐘」も例外ではありませんでした。本石町と本所の「時の鐘」がとくに有名ですが、それ以外にも浅草、市谷、目白、四谷、赤坂、芝、上野、品川、深川などにも設置されていました。それが今回の万博でよみがえったようなのです。

浅草の「時の鐘」

鐘をついて時刻を知らせた「時の鐘」や和時計では、ふつう二十四節気ごとに時刻の長短を調整していたようです。節気はおよそ15日ごとにやってくるので、それに合わせていたのです。しかし、大阪・関西万博では毎日少しずつ変化するようプログラミングされていました。

ゲート付近や「静けさの森」など7つのエリアでは、それぞれのコンセプトによって異なる楽曲が流されていました。しかも、3分間の終盤では各エリアの音が混ざり合い、和音をかなでるようになっていました。わたしも現代の「時の鐘」にめぐりあう幸運をもとめ、万博会場で聞き耳を立てましたが、残念ながらそれとおぼしきメロディーは確認できませんでした。

大屋根リングの照明

大阪・関西万博の象徴的建造物は全周約2kmの円形大屋根リングです。高さは内周が約12m、外周が最大20mあり、周遊できるようになっています。世界最大の木造建築としてギネスブックにも登録されていて、万博のレガシーとしてどう残すべきか、さまざまな議論がおこっています。実は、その夜間照明にも二十四節気が季節感の表現として援用されていました。というのも、30分ごとにリング全体をつつむ照明には変化をつけていて、たとえば8月中旬からの立秋の場合、すずしげな藍色を基調にしているとのことです。

暦会館カレンダー・ミュージアム

関西パビリオンは大阪ヘルスケアパビリオンとならんで建っています。福井県のコーナーは四面をかこむ恐竜のCG 映像が目玉でしたが、おおい町にある暦会館がカレンダー・ミュージアムとして紹介されていました。この地は応仁の乱以降、暦・天文をつかさどる陰陽師の土御門(つちみかど)家(安倍家)が3代120年にわたって京の都を逃れて移り住んだところです。暦会館には安倍晴明の画像など土御門家にゆかりの資料が多数展示されています。

中秋の上弦の月

本稿の締めくくりにあたり、1枚の写真をお見せしたいとおもいます。秋の夕暮れどき、6時35分から5分間の花火大会があり、上空には上弦の月が輝いていました。しかも虹の輪、いわゆる月暈(つきがさ)がかかっていました。地上では大人気のミャクミャクがライトアップされ、夜の来場者をむかえています。この取り合わせをたのしんで、その日は万博をあとにしました。東ゲートと地下鉄駅に向かう人ごみにまじって。

この記事を
シェアする
  • X
  • facebook
  • B!
  • LINE

中牧弘允

文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。

こよみの学校