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第38回 縁日の撰日-伝統宗教と新宗教

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 縁日といえば「門前市をなす」という古いことわざを思い浮かべる人も多いでしょう。縁日は社寺仏閣の行事日にあたり、行きかう人びとの賑わいを感じさせます。関西では東寺(京都)の弘法市や北野天満宮(京都)の天神市が毎月それぞれ21日と25日にひらかれています。東京では浅草の浅草寺の縁日(18日)や巣鴨のとげぬき地蔵の縁日(毎月4の日)が有名です。

 縁日は特定の神仏と格別に縁のある日という意味であり、その日に結縁(けちえん)すれば功徳やご利益もまた絶大であると信じられています。上記の例でいえば、21日は弘法大師の命日であり、25日は天神=菅原道真の誕生日です。また観音菩薩の縁日は18日で、地蔵菩薩のほうは24日となっています。ちなみに薬師如来は8日、阿弥陀如来は15日、不動明王は28日と決まっています。

 このように縁日には日の割り当てがあります。宗教家のほうでは、日蓮上人は13日、法然上人は25日と、いずれも命日が充てられています。宗教家でも仏教の僧侶は命日、神道は天神さまのように誕生日という振り分けがみられます。これは中国で道教の祭祀が祭神の誕生日におこなわれていることと無縁ではないでしょう。

 ところで、伝統宗教の命日や誕生日はいずれも旧暦が基本です。太陽暦に換算しておこなわれているわけではありません。すでに江戸時代に定着していた縁日がそのまま新暦にずれこんでいるのです。たとえば弘法大師の入定(にゅうじょう)は旧暦835年3月21日です。そのため弘法大師空海の創建した東寺では、旧暦の21日が縁日となっていたのです。それが明治の改暦以降は新暦の21日に移行しただけのことです。

 問題となるのは、江戸時代に生まれた教祖が明治以降に信者数を大幅に増やした教団です。天理教の場合、教祖中山みきは旧暦1798年(寛政10年)4月18日に誕生しました。現身(うつしみ)を隠されたのは新暦1887年(明治20年)2月18日です。天理教本部の「縁日」は毎月26日の月次祭(つきなみさい)です。縁日という言葉はつかっていませんが、曜日に関係なく、毎月26日には天理市の本部周辺は「門前市をなす」状態となります。なぜ26日が選ばれたかというと、命日が旧暦では正月の26日だったからです。明治中期になっても人びとはそれほど旧暦に親しんでいたということでしょう。

 天理教には教祖年祭(おやさまねんさい)とよばれる10年ごとの大規模な祭典があります。これは1936年(昭和11年)の50年祭以降、1月26日から2月18日(旧暦正月26日)のあいだに執行することが慣例となっています。つまり教祖の50年祭を開始日は新暦の1月26日、終了日は旧暦の命日にあたる2月18日と決めたことに由来しているのです。

 天理教ではのちに教祖誕生祭を毎年祝うようになりましたが、これは旧暦の4月18日をそのまま新暦の4月18日に移動させています。しかも毎月26日は本部の「縁日」であるところから、27日までは教祖御誕生慶祝旬間と定め、「かんろだいのつとめ」を普通の月では26日だけのところ、毎日つとめています。

 天理教と相前後して開教し、同時期に教勢をのばした金光教の場合、教祖である金光大神(こんこうだいじん)は旧暦の8月16日(新暦の9月29日)に誕生しました。帰幽は1893年(明治16年)10月10日です。生神金光大神大祭は新暦9月29日に至近の日曜日に第1回がおこなわれ、10月1日と5日をはさみ、10月10日で締めくくっています。つまり、新暦換算による誕生日と命日が基本となっているのです。

 立教記念の祭典も天理教と金光教では相違がみられます。天理教は旧暦の日付である10月26日をそのまま新暦に移行して秋季大祭としているのに対し、金光教は新暦換算の日付である11月15日(旧暦安政6年10月21日)を採用し、新暦11月15日を立教記念祭に充てています。明治の雰囲気をのこす天理教に対し、金光教は近代合理主義に傾斜していきました。そうした特徴が「縁日」の撰日にもあらわれているようです。

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中牧弘允

文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。

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