ハロウィンはアメリカからやってきた年中行事です。クリスマス、バレンタインにつづくキリスト教的行事の大衆化、あるいは第3波といってもいいかもしれません。起源は古代ケルトにありますが、アメリカのハロウィンはカボチャのおばけ(ジャック・オー・ランタン)とトリック・オア・トリート(いたずらかお菓子か)の唱え言葉(脅し文句)に代表される、陽気で子ども向けのものです。19世紀になりケルト色の強いアイルランドやスコットランドからの移民が増加し、ハロウィンの習俗が定着したと言われています。日本では1970年代から原宿で関連商品の店頭販売がはじまり、1983年におなじ原宿で仮装をたのしむハロウィン・パレードが開催されました。

ハロウィンは10月31日が祭日です。11月1日の万聖節(諸聖人の日)に先立つ前夜祭(イブ)の行事です。万聖節はもともと東方正教会ではじまり、7世紀にカトリック教会に導入され、8世紀頃から11月1日に統一されました。カトリックでは翌日の2日が万霊節(死者の日)となっています。たほう、プロテスタント教会では一般に諸聖人の日や死者の日を祝うことはありません。
手元のカレンダーで確かめてみると、いろいろ面白い発見がありました。まず、アメリカのカレンダーを見ると、10月31日の欄にハロウィンとあり、11月1日には万聖節(英語、フランス語、スペイン語の3つの表記)、11月2日にはスペイン語で死者の日(メキシコ)と記載されています。アメリカの西南部や西海岸にメキシコ系住民が多く移住してきていることのあらわれにちがいありません。

そのメキシコのカレンダーには10月31日の欄にハロウィンと英語での表記がみられます。メキシコの伝統ではないと言わんばかりです。そして11月1日と2日についてはスペイン語と英語の双方で万聖節と万霊節を入れています。骸骨人形が街中に氾濫するメキシコならでは死者の日の光景を想起する人もいるでしょう。国家の祝日ではありませんが、日本の盆と同じように、2日間、死や死者を思い出す祭日となっているのがメキシコです。
ブラジルのカレンダーではハロウィンどころか万聖節も無視されていて、国家の祝日でもある11月2日の死者の日だけが特記されています。ブラジルの日系人はこの日を「ブラジル盆」と名付け、一般のブラジル人も花やローソクをもって墓参りをします。死者とともに墓で食事をとる人たちもいます。

本家のイギリスではオックスフォードのカレンダーにはハロウィン、万聖節、万霊節の3つが英語で載っていますが、それらを一切無視した一般のカレンダーも見うけられます。イギリスの伝統的な歳時記では、ハロウィンの晩は死霊や悪霊が跋扈(ばっこ)する時間帯です。そのため山頂では篝火(かがりび)が焚かれ、家庭でも火を絶やしてはいけないとされてきました。

いっぽうフランスの郵便局が発行するもっとも一般的なカレンダーには万霊節と万聖節のみがフランス語で示されています。ところが、フランス北東部のアルザス地方のカレンダーをみると、日にちの欄は万聖節と万霊節だけなのに、10月の欄外に「ハロウィンを思い出しなさい」との注記がありました。11月の欄外は「諸聖人を思い出しなさい」となっているので、ふたつがセットかもしれません。
ドイツ南部のバイエルン州のカレンダーでは万聖節が祝日になっています。しかし、全国的な祝日ではありません。調べてみると、10月31日は何と宗教改革記念日です。それを祝う州があり、ハロウィンどころではありません。ドイツではカトリックとプロテスタントの色分けが州の祝日に、しかも10月末日と11月朔日にあらわれていることがわかりました。

ハロウィンはいまやアメリカに影響された消費文化として日本のみならず韓国や中国、東南アジアにも広がりを見せています。暦文協カレンダーでも2013年からハロウィンが入りました。死霊や悪霊が大衆文化に消費されるグローバルな時代となっているのです。

中牧弘允
文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。