今日の読み物

読み物

お買い物

人気記事

特集

カート内の商品数:
0
お支払金額合計:
0円(税込)

第46回 アメリカ先住民の「ホライズン・カレンダー」

この記事を
シェアする
  • X
  • facebook
  • B!
  • LINE

 ホライズン・カレンダーは地平線や水平線を意味するホライズンから命名されたものです。ホライズンとは空と大地(ないし海)が接しているように見える境界線のことなので、広義には山の稜線もふくまれます。先回のコラムでインカの暦をサミット(山頂)・カレンダーと勝手に形容しましたが、それもホライズン・カレンダーの一種にほかなりません。

 この種のカレンダーは日の出・日の入りの観察にもとづくので、基本的に天文暦といえますが、自然の景観に左右されるので、普遍的にどこでも通用するというわけではありません。特定の地点から眺めたホライズン上の太陽の動きを追って、季節の移り変わりや農耕に適した時期をはかるものだからです。まことに単純で、平凡なためか、これまであまり注目されてきませんでした。しかも、考古学的には、天文台のような特定の地点、つまりどこで観察したかを示す証拠が出にくいのです。しかしながら、民族学的には、貴重な記録が少なからず残されてきました。

 たとえばアメリカの南西部にプエブロ・インディアンとよばれる人びとがいます。ホピやズニが代表的な民族ですが、石と土のアパート形式の家屋に住むので、スペイン人たちはプエブロ(村)と名づけました。砂漠地帯に暮らすホピにとっては降雨が死活問題であり、それを期待する儀礼が欠かせませんでした。各村には太陽の観察者がいて、独自のカレンダーをもっていたとかんがえられます。シモポヴィ村で調査した記録(1931)によると、ほぼ水平の地平線上で、とくに夏至のところに祭りのマークが付けられています。もっとも、夏至以前の西暦4月から6月にかけてトウモロコシや豆などの植え付けがあり、待ち望んだ夏至を祝い、その4日後ならばさらにトウモロコシを植え付けてもよく、ほどなく夏の雨の時期がやってきます。その後、7月の末から8月の初めにかけて早稲のトウモロコシが成熟します。そして8月の末頃、笛の踊りがあり、収穫の最盛期は9月の終わり頃となります。冬至には儀礼はおこなわれますが、農耕とは関係しません。野良仕事の開始は2月頃からです。当時のホピの人たちは春分や秋分をあまり重視していなかったとみえ、この図への記載はありません。

 ホライズン・カレンダーは太陽暦の1年の周期をはかるには適していますが、年の積み重ねを記録することはできません。目的はあくまでも農耕との関係であり、儀礼の時期を決めることにあったとかんがえられます。とはいえ、ホライズン・カレンダーだけで十分だったというわけではありません。なぜなら、プエブロ・インディアンの遠い先史時代の先祖と目されるアナサジの遺跡から、天文学者や考古学者は窓や門から太陽のさしこむ光と影ではかる暦の痕跡を突き止めているからです。民族学者もまた月の満ち欠けをつかって儀礼のタイミングをはかる習俗を記録しています。

 さらにもうひとつ、ホピにもズニにもカレンダー・スティックとよばれる暦棒をつくる習慣がありました。たとえばワシントンD.C.のスミソニアン博物館に所蔵されているものは30㎝から45㎝位の長さで、丸い部分と平らに削った部分に分かれ、それぞれに刻みがつけられています。丸いところの刻みは15、平らなところの平行の刻みは17です。その上方には丸いくぼみが一つあり、その上下にそれぞれ7つと3つの切り込みがあります。謎めいた棒ですが、年・月・日を刻んだものでしょうか。

【 参考文献 】
Michael Zeilik “Keeping the sacred and planting calendar: archaeoastronomy in the Pueblo southeast” in A. F. Aveni (ed.) World Archaeoastronomy. Cambridge University Press, 1989.

この記事を
シェアする
  • X
  • facebook
  • B!
  • LINE

中牧弘允

文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。

こよみの学校