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第48回 環状列石と巨大列柱-縄文時代のホライズン・カレンダー

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 ホライズン・カレンダーは縄文時代においても季節を知る有力な手立てだったようです。知りたかった季節とは、二至二分、つまり冬至・夏至と春分・秋分です。その証拠となるのが環状列石と巨大列柱です。

 環状列石とは考古学的にはストーン・サークルとして知られる遺跡です。もっとも有名なのは世界遺産にもなっているイギリスはソルズベリーのストーンヘンジです(第10回参照)。フランスのブリュターニュ地方にもケルト語でクロムレックとよばれる環状の石がたくさん残っています。そこでは小丘のようなストーン・サークル状のケールンも見られます。他方、ドルメンというのは環状列石にテーブル型の石が乗ったものです。ケールンは積石墓、ドルメンは支石墓と訳されることがあります。ユーラシア大陸の北部にはヨーロッパからシベリアにかけて、またその東端・西端にある日本やイギリスの島々においても、環状列石はひろく分布しています。

 環状列石という総称は考古学者の駒井和愛によるものです。かれは終戦直後から環状列石をもとめて北海道各地の遺跡を発掘するだけでなく、ひろくユーラシア大陸にも足をのばしました。めざしたのは墳墓としての位置づけです。しかし、大型のストーン・サークルには墓の痕跡がないものも多く、十分に説得力のある学説とは言えないようです。近年ではむしろ、小林達雄氏に代表される考古学者たちのように、環状列石を日の出・日の入りを観測する装置とみなす説が有力になっています。その学説を最初に示唆したのは医師として北海道沙流郡二風谷(にぶたに)に暮らし、アイヌ研究にも従事したN. G. マンローです。

 マンローは1908年、小樽市の忍路(おしょろ)で発掘された環状列石をヨーロッパの事例と比較し、天体観測を目的としたものではないかと指摘しました。その後、1931年に発見された秋田県十和田の大湯環状列石は万座環状列石と野中堂環状列石というふたつの環状列石をもつ遺跡ですが、その中心を結ぶ直線の延長線上に夏至の日没方向が位置していることが判明しました。しかも程よい距離に山の稜線が見渡せ、とくに三角錐の黒又山(クロマンタ)が二至二分の目印となっているようです。また、野中堂環状列石のほうは日時計の形状を見事に配した遺構として有名です。ただし、日時計であるかどうかはさだかではありません。

 いずれにしろ、環状列石は津軽海峡を挟んで東北と北海道に顕著にみられる縄文遺跡です。駒井はそれを「ストーン・サークル文化圏」と命名し、小林は北東北と南北海道に限定した「津軽海峡文化圏」を構想し、その世界遺産登録を推進すべきと主張しています。その是非はともかく、ホライズン・カレンダーの視点からしてもう一つ見逃せないのは巨大列柱です。

 青森市郊外の三内(さんない)丸山遺跡は1992年に広範囲の発掘調査がおこなわれ、長期にわたる大規模なムラの存在が確認されました。なかでも注目を浴びたのは直径約1mもある6本の大型掘立柱の遺構です。これについては物見櫓(やぐら)説、神殿説などがありますが、暦研究からすると天測説が興味をひきます。小林達雄氏によると、3本ずつ向き合う柱は南側が冬至の日没方向、北側が夏至の日昇方向を指し示しているといいます。また太陽がもっとも高くのぼる南中(真昼)のとき、木柱の影は真北に落ちますが、それが北側の柱間の真ん中にくるよう設定されていたと推測しています。とりわけ夏至の南中のときには、影の先端が柱間の中間にくるよう、木柱の高さを14.7mに復元しました。

 三内丸山のような大型列柱の遺跡は日本海岸沿いに分布し、たとえば新潟県青海町の寺地遺跡には4本の木柱が建ち、配石の遺構がみつかっています。また環状木柱列(ウッド・サークル)とよばれる遺跡も全国で数十例あるそうです。ヨーロッパの事例としてはゴゼック・サークルをすでにとりあげています(第10回参照)。

 縄文人は環状列石や大型列柱、環状木柱列などを設置し、二至二分を知り、クリやクルミの収穫期、あるいはタラやサケの豊漁期を心待ちにしていたにちがいありません。

【参考文献】
小林達雄編著『世界遺産 縄文遺跡』同成社、2010年。
駒井和愛『音江―北海道環状列石の研究』慶文社、1959年。

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中牧弘允

文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。

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