雪国にはいかにも雪国らしいユニークなカレンダーが点在しています。雪国らしさは冬期間の暮らしに直結しています。厳寒と降雪の冬をどう乗り切るか、その課題にカレンダーが挑戦しているのです。
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青森「あおもり雪歳時記(ごよみ)」
「あおもり雪歳時記」は11月から4月までの冬季限定のカレンダーです。「冬の暮らしをより豊かに楽しくすごすために、語り合い研究し、行動する団体」であるところの「あおもり雪国懇談会」が発行しています。最大の特徴は積雪量と気温がグラフで表示されていることです。雪に関しては、日毎に、過去30年間の積雪量と降雪量の平均値、ならびに前年の積雪量と降雪量が示されています。気温については、前年の最高気温と最低気温が毎日、載っています。これをみると、降雪量の平均はばらついていますが、積雪量の平均はゆるやかなカーブで右肩上がりになり、2月は74~82㎝台で水平に推移し、3月からは右肩下がりで減っていくことがわかります。気温は小寒、大寒、立春にかけて、常時マイナスの日がつづくことが見てとれます。
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「雪歳時記」には「雪国だから助雪でHOTに助け合い」といったシャレたよびかけがあるかとおもえば、「冬支度チェックリスト」と銘打った便利な欄もあります。野菜をみずみずしく保存する雪国の知恵、天然の冷蔵庫「雪室」の紹介もあれば、バス停の雪かきへの協力依頼もあります。かわいいイラストもついていて、楽しい雰囲気をかもしだしています。
新潟「雪国の暮らしカレンダー」
新潟県の豪雪地帯、十日町でも「雪国の暮らしカレンダー」が発行されています。こちらは12月から翌々年の3月初旬までの15ヵ月あまりの期間をカバーしています。雪国を彩る風景や祭事の写真に添えられた文句が粋です。「ただ雪の多いところ、じゃなくて、そこに人が暮らしているから、雪国」にはじまり「雪国らしさを感じること多いのは冬よりも、むしろ春」とつづき、夏と秋についても「夏に雪国らしさなんてないと思ったけど、そこかしこに冬の名残」「紅葉の秋とか文学の秋とかいうけれど、雪国の秋は冬支度の秋」とたたみかけています。心にくいのは、冬は18週126日、春は14週98日、夏は10週70日、秋は14週98日、そして次の冬も18週126日と振り分けられていることです。雪国の冬は長く、夏は短いことが一目瞭然に伝わってきます。
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再び青森 寒試しでリンゴ予報!
江戸時代、津軽の農書に「寒試し」のことが記されています。それは小寒から立春までの気象の変化を1年に拡張する天候予測でした。一種の年占いではありましたが、作付の時期や作柄の予測をしていたものとおもわれます。その伝統が現代によみがえりました。というのも、津軽錬成会というリンゴ農家がリンゴ畑の「微気象」を観測し、「寒試し」を復活させたからです。より具体的に言うと、モニタリング装置でリンゴ園の風のデータを計測し、それを気象台の天候予報と照合して、落実に直結するような台風を予測し、剪定量や摘果量を調節する目安としているのです。その契機となったのは1991年の「リンゴ台風」でした。青森では雪だけでなく風ともたたかっていることがわかります。
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秋田「日本酒ごよみ」
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いっぽう秋田の「雪ごよみ」はカレンダーではなく日本酒でした。純米吟醸で、うすにごりの生酒だそうです。後味はまるで「淡雪」のようだと形容されています。名酒「雪ごよみ」を飲みながら、各地の雪国カレンダーを楽しみたいものです。
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中牧弘允
文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。