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第60回 渋川春海と麻田剛立-江戸前・中期の天文学者

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1年に2回楽しむ七夕

 梅雨が明けて、天の川がきれいに見える季節になりました。天の川は英語ではMilky Way(ミルクの道)とかGalaxy(銀河)といいます。ギリシャ神話によると、主神ゼウスと寿命のある女の間に生まれた赤子ヘラクレスは、不死を獲得するためにゼウスの正妻ヘラの乳を吸ったところ、乳がほとばしり出て、天空の川、つまりガラクシアス(乳の川)になったと伝えられています。中国では天の川は天河と書き、織姫と牽牛(彦星)の話は有名です。天の川は新暦の七夕行事と強く結びついていますが、ほんらい旧暦の7月7日に夜空を見上げるべきもので、そのほうが綺麗に見えるはずです。今年(2015年)は8月20日(木)にあたっています。

 江戸時代の天文学者や暦学者は天の川や星にはあまり目もくれず、月と太陽の観測に集中していました。当時の暦は太陰太陽暦でしたから、月や年の変わり目を知る意味でも、また日食や月食の予知という点でも、為政者と庶民を問わず日月が重大な関心事でした。というのも、日食や月食はたんなる天文現象ではなく、不吉な予兆や災厄と関連づけられていたからです。

日本の暦と渋川春海

 日本独自の暦(大和暦)を作成した渋川春海(しぶかわ・はるみ、1639—1715)は一度、日食の予知に失敗しました。かれが依拠した元代の授時暦(じゅじれき)で無食とあったのに、822年に採用した唐代の宣命暦(せんみょうれき)の予報どおり日食がおこったのです。その原因を追究したところ、中国と日本の里差(経度差)におもいいたり、また近日点(太陽と地球との距離がいちばん近い点)が移動することも学びました。失敗は成功のもとの譬(たと)えどおり、三度目の上奏でようやく大和暦が認められ、貞享元年(1684)にちなんで貞享暦(じょうきょうれき、1685—1754)と名づけられました。

 近日点の移動については中国語に翻訳された西洋天文学の書物から知るところとなりました。当時、最新の天文学はオランダ語か、その中国語訳に依存していました。寛政暦(1798—1943)では『暦象考成 後編』の翻訳を通じて太陽と月の軌道が楕円であることが考慮されました。さらに天保暦(1843—1872)では『新功暦書』(『ラランデ天文書』の翻訳)などをもとに定気法(黄道を15度ずつ均分して気を決める方法。節気は黄道を24等分して決めるため、地球の等速を前提としているが、実際は楕円軌道のため微妙に速度が異なる。)を採用しましたが、西洋天文学の成果をとりいれた結果、かえって旧暦の置閏法(ちじゅんほう)を複雑にし、2033年旧暦閏月(うるうづき)問題の遠因となってしまいました。

月に名前がある天文学者

 それはともかく、暦学には天文学と数学の知識が不可欠でした。数学のほうは和算が幅を利かせ、関孝和のような和算家がおおくの暦学研究書を刊行しています。他方、天文学のほうは、オランダの知識や技術が先をいっており、その翻訳と和製の機器による天体観測が急務でした。そこで活躍した天文学者の一人に麻田剛立(あさだ・ごうりゅう、1734—1799)がいます。

 かれは豊後国(大分県)に生まれ、藩主の侍医をしていましたが、天文学を志し、故郷を捨て大坂に出奔(しゅっぽん)しました。名前も麻田剛立と変え、先事館(せんじかん)という天文塾をひらきました。そして天体観測をしながら、西洋暦法についても漢文の翻訳を通して学びました。剛立は時中暦(じちゅうれき)を完成させ、ケプラーの第三法則(惑星の公転周期の二乗は太陽からの平均距離の三乗に比例する)と同様の法則を発見しますが、その名が世界で知られているのは月のクレーターの観察記録によります。というのも、豊かの海の北辺に位置するクレーターにAsadaの名前がついているからです。

 麻田はまた宝暦暦(ほうりゃくれき、1755—1797)には記されていない日食(1763年旧暦9月1日)を予報し、見事に当てたことでも知られています。大坂の先事館に入門した弟子には高橋至時(よしとき)や間重富(はざま・しげとみ)らがいますが、かれらについては稿をあらためなくてはなりません。

参考文献
鹿毛敏夫『月に名前をのこした男―江戸の天文学者 麻田剛立』角川ソフィア文庫、2012年。
鳴海 風『星に惹かれた男たち―江戸の天文学者 間重富と伊能忠敬』日本評論社、2014年。

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中牧弘允

文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。

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