大人気!日めくりカレンダー
カレンダー市場での最近のヒット商品は「1ヵ月分の日めくりカレンダー」でしょうか。松岡修造の「日めくり まいにち、修造!」(PHP研究所、2014年9月)が10ヵ月でミリオンセラーとなり、次の「日めくり ほめくり、修造!」(2015年9月)も大好評のようです。松岡修造の熱い応援が毎日の元気の源になっているのでしょうか。第1弾は表紙のみカラーだったのが、第2弾では日めくり部分も日毎に色を変えた2色刷りへとバージョンアップしています。しかも、「日めくり」と「ほめくり」は韻を踏んでいるではありませんか。

便乗商品も花盛りです。お笑い系のヨシモトブックスはさっそく「まいにち、ポジティヴ!」(2015年3月)を売り出し、それに負けじとヒロシの「まいにち、ネガティブ。」(自由国民社、2015年9月)が追随しています。現代日本は、毎日、ポジティブとネガティブでバランスをとっているかのようです。さらに「まいにち、エガ!」や「まいにちひるこ蛭子さん」も販売予定になっています。
さまざまな世代の日めくり
老舗(しにせ)のカレンダー業界も後れをとるまいと次々と新商品の開発に着手しています。「元氣の出る猫語録 日めくり」「心の花 小籔実英万年日めくりカレンダー」「人生をあきらめないカレンダー―生活習慣の改善でボケの予防と回復」「孤独のグルメ 万年カレンダー」などがその例です。子ども向けの「まんねんカレンダー ペネロペといっしょにやってみよう!」はホワイト・ボードに31日の日めくりが付いているだけでなく、マグネットを月の数字と曜日のひらがなに合わせ、絵やメッセージを親子で楽しめるようになっています。

歴史をさかのぼると、「1ヵ月分の日めくりカレンダー」は生長の家やPL教団などの新宗教が信者向けにさかんに制作・頒布していました。生長の家の創始者である谷口雅春の聖句を31日分あつめたものは、すくなくとも戦後間もない時期から広く普及していました。生長の家の信者がアメリカやブラジル、ペルーなどに増えるにつれ、英語版やポルトガル語・スペイン語版も出まわるようになりました。PL教団についても同様のことが言えます。つまり、教祖や教主の教えを日々実践するに当たり、12回つかえる日めくりカレンダーは布教上かなりの効果が期待できる教団グッズなのです。冠婚葬祭や年中行事などの儀礼を中心に据える伝統宗教に対し、新宗教は日常の生活倫理を説くことに重点を置いています。その意味で「継続は力なり」の伝統宗教に対し、新宗教は「反復は力なり」をよく心得てカレンダーを活用してきました。
日めくりでポジティブに!
ひとむかし前、「1ヵ月分の日めくりカレンダー」の盟主は書家の相田みつをでした。おなじ書家で画家でもある御木幽石も根強い人気を誇っています。そこに松岡修造がスマッシュを打ち込み、KAZU(三浦知良)などのアスリートを活性化させただけでなく、お笑いタレントやスティーブ・ジョブズなどの経営者をも巻き込むようになりました。ニーチェやマザー・テレサなどの「重い」言葉に代わって、清涼感や癒し、あるいはやる気や元気につながる「軽い」言葉がもてはやされているようです。

「1ヵ月分の日めくりカレンダー」は「万年日めくりカレンダー」といったジャンルに属していますが、夏目漱石の名作にたとえれば、「名前はまだない」状態が続いています。

中牧弘允
文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。