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第8回|ネブラ天穹盤-天穹は天球に通ず

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青銅器の時代の暦

ドイツで発掘され、ヨーロッパで話題となり、愛知万博でも展示された青銅器時代の暦の傑作品があります。暦とはいっても毎日の日付を知るものではありません。英語ではNebra sky disk、つまりネブラに出土した天穹盤(天文盤)とよばれています。直径約31㎝、重さ約2kgの円盤には、青緑の夜空に輝く三日月と満月と星たちが金箔で造形されています。また20㎝ほどの曲線が2本、これまた金箔で縁にあしらわれています。子細にみると、金箔が剥げたもう一本の曲線もあったことがわかります。

ネブラ天穹盤をめぐる攻防

この天穹盤は1999年に発掘、いや正確には金属探知機をつかって盗掘されました。売買をめぐる紆余曲折があり、2002年におとり捜査で考古学者が奪還するという一幕がありました。盗掘のため、縁の一部がハンマーで破壊され、満月の金箔も部分的に剥げ、また不適切な洗浄もおこなわれましたが、いまはそれなりに修復され、ドイツ東部、ハレのザクセン・アンハルト州立先史博物館に展示されています。その博物館は目下わたしが滞在しているマックス・プランク社会人類学研究所と目と鼻の先にあります。

天穹盤の見方 その1

考古学者や天文学者が出土地や成分分析、また往時の天文現象を調べた結果、およそ次のようなことがわかりました(異説もあります)。製作年代はB.C.1600年頃、銅はオーストリアの東アルプスの鉱山から、金はイギリス南西端、コーンウォールから産出したものだそうです。星の数は32、そのうち7つの星のかたまりはスバル(プレアデス星団)とかんがえられ、当時、3月の三日月の頃、夕空に姿を隠し、10月の満月の頃、朝空にふたたび現れ、近接して輝いていたとのこと。他方、左右対称に縁どられた金箔の曲線は右側が日の出、左側が日の入りの方角を示しています。下端が冬至、上端が夏至の日の出、日の入りの方角です。なぜなら、対角線の角度が82度から83度で、ちょうど夏至と冬至に対応するからです。まさに携帯用の暦として使用されていたことがわかります。

ネブラ天穹盤の見方

天穹盤の見方 その2

さらに驚くべきことに、下方の曲線は「太陽の舟」だというのです。エジプトでは墳墓の絵画に描かれた、夜も航行しているという「太陽の舟」です。北ヨーロッパでも青銅器の剃刀にその模様は刻まれていますが、天穹盤にあるのはまさに所を得ていて、腑に落ちます。

天穹盤の見方 その3

古代バビロニアのB.C.7世紀から6世紀にかけての楔形文字版には「春の月にスバルの近くに三日月(新月から数日の月)しか現れなかったら閏月を入れよ」という、閏月についての最古の記録があるそうです。たしかに天穹盤の月はスバルに隣接し、まさに三日目頃の月です。ただし、32という星の数は32日(ひと月プラス数日)を意味するという学者もいるようですが、そこまではついていけません。

いずれにしろネブラ天穹盤は近年まれにみる貴重な考古学的発見のひとつです。2002年以降のヨーロッパの展示会では70万人以上の人たちが見学に訪れているほどです。暦の研究の上でもまちがいなく重要な資料です。別れがつらいですね。

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中牧弘允

文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。

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