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風祭かざまつり・かぜまつり

暦とならわし 2024.09.01

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こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。

日本には、全国各地にさまざまな祭祀(さいし)――すなわちお祭りが受け継がれていますが、皆様はその中でも「風」にまつわる祭祀についてご存知でしょうか?
今回ご紹介するのは「風祭」というもので、これは主に風害除けの祈りを神様に届ける内容です。

現代では「風害」という言葉自体になじみがなく、ピンとこないという方もいらっしゃるかもしれませんが、農業や漁業を行う人々にとっては特に切実な、避けることのできない自然の脅威のことを言います。
台風や嵐などの影響は、せっかく大切に育ててきた稲や作物の実りを一瞬で台無しにしてしまいかねませんし、荒れた海は一歩間違えば船乗りたちの命を奪いかねない恐ろしいものです。

そこで、「人々の生活や仕事を脅かすような嵐が訪れることなく、必要な風が上手に吹きますように」という切なる願いを込めたお祭りが、長い歴史の中で自然に生まれ、各地で受け継がれてきたのでしょう。

特に旧暦においては、台風被害が起きやすい日とされている「八朔(旧暦8月1日)」「二百十日(春分の日から210日目)」「二百二十日(春分の日から220日目)」の3日を天候や農業にとっての「三大厄日」と呼んで、この頃に風の神様をお祀りしている神社を中心に風害除けの祭祀を行ってきました。
新暦に当てはめると、「八朔」は8月下旬から9月頃、「二百十日」は9月1日前後、「二百二十日」はそのさらに10日後ということになります。

私たちの国では、古来、自然の力そのものが「八百万の神」として数えきれないほど存在し、人の手が及ばない大いなる力としてひとつひとつ大切に捉えられてきました。
自然の力は私たちにとってかけがえのない恵みであるのと同時に、時に荒ぶれば脅威となりうる「畏れ」の存在としても敬意をはらうものとして扱われていたわけですね。
この風祭もそうですが、神道の祭祀の中で自然の荒々しい面を「鎮める」といった目的のお祭りは、決して少なくありません。

その具体的な内容は地域や神社によってもさまざまですが、主に風の神様に対してお供え物をして祝詞をあげることはもちろん、踊りやお囃子・獅子舞の奉納や、注連縄・人形などによって風の悪霊を防ぎ追い払うといったことが行われます。

「風祭」という呼び名も、「風鎮祭」「除風祭」「風神祭」といった形で多種多様に受け継がれています。
風の神様のことも「風の神」「風神」以外に、「風三郎」「又三郎」などと人の名前のような呼び方で伝えられている地域もあり、ちょっとユニークですよね。

近年でも、やはり台風などの風水害における被害は、私たちの暮らしの身近に存在しています。
普段は穏やかな景色もこの時ばかりは一変し、人々の命を脅かすこともあるのは恐ろしいものです。
しかしこの世界に生きる限り、自然にはさまざまな表情があるものだということを、日頃から忘れずにいることは大切なことなのではないでしょうか。

「風祭」のような風習や行事は、そういった「畏れ敬うべき自然の脅威」について、私たちに思い出させてくれる文化でもあると言えます。
皆様にとって身近な地域では、このようなお祭りがあるでしょうか?

私たちは自然を前にしたとき、その力に対して驕ることなく正しく畏れ、その恩恵を謙虚に受け取ることが、平穏な暮らしに欠かせないことです。
今日はぜひ「風」の神様についてイメージしつつ、自然と上手にお付き合いする暮らしについて考えてみてはいかがでしょうか。

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紺野うみ

巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。

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