梅雨が明け、猛暑の日々が始まりました。七十二候では「桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)」となりました。
桐は5月頃、うす紫のベル型の花を咲かせます。桐は成長が早く、十数メートルの大木になる木で、花はその高い梢に咲くので地上からは見えにくいことが多いのですが、たわわに咲いています。
これは山で撮った桐の花で、交ざり合うように咲いているのはニセアカシアの白い花です。ニセアカシアはミツバチが好きなことで有名ですが、桐の花は大きくて深いベル型なので、クマバチや大型のマルハナバチが訪花します。ぽとぽとと落ちている花を拾ってみると、甘くいい香りがしました。
私はある時期、通っていた大都会の真ん中で、桐の花を眺める機会がよくありました。人目のつかないビルとビルの隙間のような場所に残された桐の木があって、うす紫の花はちょうど4階の非常階段からよく見えました。こんなに間近にみえるのはビルのおかげ、と不思議な気分になったものです。
昔は女の子が誕生すると桐の木を植えて、嫁入りするときに伐って桐たんすを作る風習があったといいますが、あっという間に十数メートルの高さに成長してしまう桐の木は剪定に困ることから現在、庭木として植えられることはほとんどありません。ですが、高貴な紫の花をつけ、高くそびえるこの木の上に鳳凰が棲む、という伝説もなんとなくうなずけます。
花が咲き終わり、大暑を迎える頃、丸くて硬い実のようなラクダ色の花芽、つまり来年のためのつぼみが目立つようになってきます。このつぼみはすでに冬越しするために丈夫な毛皮にしっかり包まれていて、翌年、花が咲くときも最後まで、萼のようについています。
初夏の山を彩る紫の花といえば、たいてい山藤か桐の花ですが、藤の花との違いは明快で、桐の花の方が淡い色合いで、つぼみの殻のラクダ色とライラック色の組み合わせになるためか、どこかふんわりと優しくみえます。
このつぼみはいかにも実のようにみえるのですが、桐の本当の実はずっと大きく、3〜4センチの大きな卵型で緑色です。
オニグルミの実によく似ていますが、オニグルミのように秋になっても地上に落ちることなく、そのまま枝に残って茶色になり、冬になると尖った先端がカラスのくちばしのようにパカっと割れます。
中にはパラフィンのように薄い羽つきの種がたくさん入っていて、わずかな風でふわふわと飛んでいきます。口の割れた古い桐の実は、初夏に花が咲く時期にも残っていることが多いので、花の咲く時期に確かめてみてください。
つまり桐は花が咲いた後、神楽鈴のようなラクダ色の丸い来年用のつぼみと、卵のような大きな実が両方ついた状態がずっと続いているということになります。
そして七十二候の「桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)は、花の後に出てくるラクダ色の丸いつぼみの方をさしています。花札に使われている桐の図案も、花は花で描かれていますので、基本的にはこのつぼみをデザインしているようにみえます。
ところで桐の葉はスペード型でとても大きく、屋根のような緑陰を作ります。繁った葉が天蓋のように張り出した枝のことを翠蓋(すいがい)といいますが、夏は木陰に入るだけでも、本当に救われる思いがします。どんなに日差しが強い日でも木陰さえあれば、なんとかしのげます。
そして「桐一葉」といえば、初秋の季語。大きな桐の葉がはらりと一枚、落ちるのをみて秋の訪れを知ることで、「一葉落ちて天下の秋を知る」は自然界の小さな動きをみて全体を見たり、先を見通したりすることとされています。
これから続く猛暑の日々、ぜひ翠蓋の涼しさを楽しみましょう。
文責・高月美樹
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