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コバンソウ

旬のもの 2021.06.12

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こんにちは、俳人の森乃おとです。

初夏に入りますと、道端や畑・草地などの日当たりのよいところで、細い茎から小穂(しょうすい)をいくつもぶら下げたコバンソウ(小判草)に出会うことが多くなります。地味ではありますが、見かけるとなんとも嬉しくなり心が明るくなるようで、私の大好きな雑草の一つです。

「小判」や「米俵」のような黄金色

コバンソウ(小判草)はイネ科コバンソウ属の一年草。学名Briza maximaの「ブリザ」は、ギリシャ語「briza(ライムギ)」が語源です。

同じイネ科のエノコログサと同様、都会の道路脇でも空き地でも、日本各地に群生しているためか、昔から日本にあったと思われがちですが、意外にも地中海沿岸原産の帰化植物です。明治時代に観賞用として渡来し、逃げ出して広く野生化しました。

5~7月頃に花をつけ、草丈は30~60㎝。全草がやわらかく鮮やかな緑色をしていて、葉はイネ科らしく線形で、長さは8㎝くらい。花序の長さは10㎝ほどで、細く糸のように伸ばした茎の先端に、1~3cmほどの少し膨らんだ楕円形の小穂を、数個から10個程度実らせます。その重みで茎の先は垂れさがります。

花びらは退化して鱗片が重なり合い、苞(ほう)が変化した穎(えい)※から、雄しべと雌しべが飛び出ています。穂は、はじめ黄緑色をしていますが、熟すると光沢を帯びて黄金色に輝きます。米俵にも似ていることから、別名タワラムギ(俵麦)とも呼ばれます。
※穎(えい):イネ科植物の小穂に見られる鱗状包葉 のこと

小判草 ゆつくりと揺れ 迅(はや)く揺れ  ――清崎敏郎

俳句の世界では、コバンソウは夏の季語。風が吹けば、時にはゆっくりと、時には激しく揺れる涼しげな姿を、俳人・清崎敏郎(1922~99)の一句は、よくとらえて詠んでいます。

ちなみにコバンソウの英語名はBig quaking-grass(大きな揺れる草)、あるいはNodding Isabel(うなずくイザベル)です。

コバンソウの同属の仲間には、三角形の3mmほどの小穂をつける「ヒメコバンソウ(姫小判草)」があります。コバンソウよりも小型で、穂を振るとカラカラと音を立てることから、別名「スズガヤ(鈴茅)」とも。(「茅(カヤ)」とはイネ科の植物のこと)
ヒメコバンソウは江戸時代に日本に渡来し、梅雨の季節からの風物詩となっている野草です。

ヒメコバンソウ
小判草  振つてみて それだけのこと  正木ゆう子
小判草 遠くのやうな 音に鳴る  森田桃村

この俳句二句からは、ヒメコバンソウを折り取っては茎を回し、耳元で鳴らして遊んだ子どもの頃の記憶が懐かしくよみがえってくるようです。

ところでコバンソウと似た名前を持つ「オオバンソウ(大判草)」という植物がありますが、アブラナ科ルナリア属で、平たい大形のサヤを持つ、まったく別の植物です。

オオバンソウ

花言葉は「大金持ち」「心を揺さぶる」「熱心な議論」「素朴な心」など

花言葉の「大金持ち」は和名どおり、小判を連想させることから。「心を揺さぶる」「熱心な議論」は、吹きつける風に絶え間なく揺れ、小穂をぶつけ合う姿からの連想です。
ちなみにヒメコバンソウの花言葉は「私の心に気づいて」。小穂の鳴る微かな音を心の声に例えた、繊細で可憐な花言葉です。

コバンソウはその個性的な姿から、金運アップの縁起物として、フラワーアレンジメントや生け花の花材にもよく利用されます。園芸店でも購入できますが、野で摘み草を楽しみながら、ドライフラワーやリースづくりに挑戦してみてはいかがでしょう。

またコバンソウは、ほかのイネ科植物と同じように、穂の部分を炒めると美味しく食べることができます。お菓子の飾りつけにも使われるそうです。

コバンソウ(小判草)

学名Briza maxima 英名Big quaking grass   イネ科コバンソウ属の一年草。ヨーロッパ原産。別名タワラムギ(俵麦)、オオユレソウ(大揺草)。高さ30~60㎝。花期は5~7月。小穂は細い枝に数個ずつつき、長い柄を持ち垂れさがる。同属のヒメコバンソウは、小穂が小型で多数につく。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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