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ジョウビタキ

旬のもの 2021.10.16

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

私にとって10月はソワソワ月間です。
以前、このエッセイのツバメでも3月はソワソワすると書いたのですが、10月もソワソワします。
その原因はジョウビタキが日本に渡ってくるからです。毎年10月になると、北の繁殖地から越冬のために本州以南の地域へ飛んでくるので、いち早く確認したくて落ち着かなくなります。

オス 

ジョウビタキは、大きさ14cmほどの小鳥。オスは、頭が明るい灰色で顔と翼が黒く、胸からお腹にかけてが明るいオレンジ色のとても美しい姿をしています。メスは全体が明るい褐色で派手さはありませんが、くりっとした黒目がとても愛らしい小鳥です。雌雄どちらにも翼には目立つ白斑があり、これを着物の紋付きに見立てて、「紋付き鳥」なんて呼ばれたりもします。

メス

ジョウビタキが日本に現れるのは、たいていが10月中旬から下旬です。特徴的な「ヒッ、ヒッ、カッカッ」という声で鳴き、この声で来たことがわかります。ですから、シーズンになると鳴き声が聞こえないかと毎日ソワソワ。ついに耳にした日には「来た!来た!」と嬉しくなるのです。

この「ヒッ、ヒッ、カッカッ」という声が、実はヒタキという名前の由来です。火打ち石を打ったときに出る「カッカッ」という音に似ているので、“火焚き”という名前がついたといわれています。では、ジョウビタキのジョウとは何でしょうか。正解はお爺さんのこと。漢字では尉と書き、これは能の翁という意味です。翁の頭髪は白髪のロマンスグレーですね。オスの頭の色はまさにロマンスグレーという表現にぴったり。それにしても、この色から翁を連想するとは昔に人の感性には驚かされます。

ジョウビタキがいるのは、農耕地や河川敷、公園などの開けた環境で、住宅街でもよく見かけます。こんな美しい小鳥が家の庭に来るのですからたまりません。渡って来たばかりのころは、屋根のテレビアンテナに1羽でとまって鳴いている姿をよく見ます。
実はこの声は縄張り宣言。食べものが昆虫や木の実なので、昆虫があまりいない寒い季節は縄張りを作って確実に得られるようにする必要があるのです。ですから、お互いがライバルなので群れを作ることはなく、それどころか激しいケンカになることも。カーブミラーや車のドアミラーに映った自分の姿をライバルと勘違いして攻撃する、なんてこともあります。

日本の代表的な冬鳥であるジョウビタキですが、2010年くらいからちょっとおかしな事が起こっています。
それは、春になっても北の繁殖地に帰らない鳥が出はじめ、子育てをするようになったのです。実は1983年に北海道で繁殖記録があるのですが、本格的に繁殖をはじめたのは2010年から。場所は長野県の別荘地でした。それ以降、山梨県や岐阜県、兵庫県、鳥取県でつぎつぎと繁殖が確認され、すっかり冬鳥ではなくっている場所があるのです。

ただ、この繁殖をはじめたジョウビタキが冬はどこにいるのかわかっていません。それを調べるために、親鳥やヒナに色脚環を取り付けていますが、未だに越冬している色脚環のついたジョウビタキは1羽も見つかっていないんだそうです。この冬、皆さんの街に現れたジョウビタキに色のついた脚環がついていないか注意してみてください。そして、もし見つけたら教えていただけると嬉しいです。

写真提供:柴田佳秀

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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