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梅干し

旬のもの 2022.07.25

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漬物男子、田中友規です。
元号が令和に変わってからというもの、天災、感染症、戦争、テロと、世界はなにか触れてはいけないものに触れてしまったかのように今までとは違う不安定な時代に突入してしまいました。歴史は繰り返すし、諸行無常。安定が続くことなどないわけで、常にぬかるみに足を沈めながらも半歩でも先へ進むしかないのです。

何か新しいことを、とジタバタ半年ほどもがき、この夏に新しいプロダクトをなんとか発表することができ、海外で100人の漬物ファンに出会えました。世界がこんな不安定な時代にもかかわらず、日本の漬物を好きになってくれる機会を生み出すことができたことが本当に嬉しくて、また大事に大事に縁を繋げて生きていこうと思います。

春も梅雨も瞬きする間に過ぎ去って、気がづけば夏。梅仕事です。
昨年はなんとなく気分が乗らず、梅干し作りはパス。
今年はまた別の梅仕事をしてみようと、梅シロップをメインで仕込みました。

氷砂糖とヘタを取った完熟梅を用意して、漬物ポットPicklestoneに丁寧に敷き詰める。
梅仕事といってもシロップ作りはこれだけです。

写真提供:田中友規

氷砂糖は毎日ゆっくり溶ける。
蓋を少し開けて香りを嗅ぐと、ふわりと甘く、糖分の浸透圧でシワの増えた梅から毎日じわじわとエキスが染みでて、二週間ほどですべての梅が浸ります。

グラスに氷を入れて、シロップと水を1:4。無農薬レモンを一切れ絞ってみました。

写真提供:田中友規

舌にじわ〜っと染み渡る優しい酸味は、ペットボトルでは味わえない感覚で、身体が欲しがっているのがよくわかる。梅干しもいいけど、こっちもいいなぁ。

と、またいつものクセが出てひとつ疑問が浮かんできました。
なぜ「氷砂糖」を使うのだろうか。ゆっくり溶けるから「氷砂糖」とどのレシピにも書いてありますが、ゆっくり溶けないといけない理由はなんなのでしょう。

まずは氷砂糖とはなにか調べてみると、作り方は金平糖とほぼ同じ。
グラニュー糖のひと粒を芯にして、溶けた砂糖液を低温で乾燥させながら何層にも纏わせて固めていき、純度の高い塊が氷砂糖だそう。確かにこれならゆっくり溶けるのも納得です。

ではゆっくり溶かすことの意味はなんなのか。ここでふと思い出したのがマロングラッセです。栗は柔らかくて、一気に糖度の高い液に漬け込むと糖分が染み込む前にバラバラに割れてしまいます。なので、毎日少しずつ濃度を上げてゆっくりと糖分を染み込ませて5日ほどかけて完成させるのだ。昔、それを知らずにどぼんと高糖度の液に漬け込んで大失敗したのを思い出しました。

ははぁ、なるほど。つまりゆっくり糖分と梅のエキスを交換しないと、香りを十分に抽出できないのだ。だれが思いついたのかはわかりませんが、氷砂糖のいい仕事を味わいながら、日本古来の知恵にひとり乾杯。じっくり抽出された梅の香りは素晴らしいなぁ。

今年の仕込みは半分梅干し、半分シロップで、梅干しのほうも梅酢があがってきたところ。
連日晴れが続きそうな天気予報が出れば、すぐに天日干しです。梅干しも美味しいですが、ぼくが狙っているのは梅干しの副産物である「柴漬け」。赤紫蘇から出た梅酢にきゅうり、なす、茗荷、生姜を漬け込むだけですが、それぞれ個性のある夏野菜をピシッと統制の取れた漬物に仕上げてくれる梅の力強さに、漬けるたびに感服いたします。

梅を漬けるだけで、日本人の食への営みの足跡を知ることができる。新しいレシピを作り出すのもいいが、歴史書をめくるようなこの行為は、一生続けられる楽しみだ。

梅干しの歴史は本当に長い。奈良時代にはもう梅を使った薬があったというから、現代人が疲れた時に梅を欲するのもよくわかる。なんとなく鬱屈とした令和の時代に、夏の梅が背筋をぴんと伸ばしてくれたような気がします。

実は令和という元号にも、梅が大きく関わっているのだ。
「時に、初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫らす。」
この万葉集の歌の二文字から「令和」が生まれたそう。

梅と日本はずっと共にいたんですね。

春の陽気の中で咲き誇る白い梅の花を思いながら、これからどんな時代がきても、軽やかな面持ちでいたいものです。令和に思うことはたくさんありますが、みなさんもどうか健やかに。

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田中友規

料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。

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