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サシバ

旬のもの 2022.09.06

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田です。
9月になると、私は上空が気になってしかたがありません。とくに晴れた日の午前中は、何度も空を見上げてしまいます。何がそんなに気になるのかといえば、タカのなかまのサシバが飛んでいるかもしれないからです。

サシバは全長約50cm、カラスくらいの大きさのタカで、春になると本州や九州、四国に渡ってくる渡り鳥です。サシバって、ちょっと変わった名前ですね。もちろん差し歯とは関係ありません。どんな由来なのか調べてみたのですが、よくわからないみたいです。文献によると、鎌倉時代にはすでに「サシバ」と呼ばれていたそうで、700年くらい前からある名前を未だに使い続けているなんて、なかなか素敵な事だと思います。

写真提供:柴田佳秀

タカと言えば深山幽谷の鳥のイメージがありませんか? ところがサシバはちがいます。里山を代表するタカで、雑木林と水田が織りなす平地や丘陵地に生息しています。

なぜ、そんな環境を好むのか。それは主な獲物が、ヘビやカエル、ネズミ、昆虫などの水田やその周りにすむ生きものだからです。水田を見下ろす木や電柱にとまり、地上にいる獲物を見つけると飛び降りて、脚で捕らえます。ですから、水田の周りの草があまり伸び放題だと獲物が見えません。農家の方が草刈りをしてくれた方がサシバにとって嬉しいのです。

地上の獲物を狙う様子 写真提供:柴田佳秀

子育ての期間はだいたい4~7月くらいで、8月は子どもたちが独り立ちする時期。そして、9月になると越冬地へ向かって移動を始めます。その時は、街の上も飛んで通過していきますから、街中でサシバの姿を見るチャンスなんです。タカが街中で見られるなんて、ちょっと嬉しいことなので、この時期は上空が気になって仕方がないわけです。

青空を飛ぶオス 写真提供:柴田佳秀

サシバが渡るルートは決まっていて、愛知県伊良湖岬や長野県白樺峠など、日本各地にタカが集まる有名ポイントがあります。なかでも白樺峠は、日本有数のウォッチングポイントで1シーズンにトータルで約8800羽のサシバが通過していきます。

ただ、たくさんのタカが毎日コンスタントに渡っていくわけではなく、一度に千羽近くが見られる日があれば、ほとんど姿を見せない日もあります。運がいいと、上昇気流をとらえたサシバが谷間から次々と渦を巻くように現れ、蚊柱ならぬタカ柱になることもあり圧巻の一言。そんな素晴らしい光景を見た人は、すっかりホークウォッチングの虜になり、毎年のように峠へ通う人もいます。

白樺峠でホークウォッチングをする人々 写真提供:柴田佳秀

ところで、どうしてサシバはこんな渡りを毎年繰り返すのでしょうか。その答えの1つは、彼らの食べものにあります。前述したように主な獲物はヘビやカエル、昆虫です。この生きものたちは寒くなると冬眠してしまうので、食べものが捕れなくなってしまいます。ですから、冬にはヘビやカエルがいる暖かい地域へ移住するのです。

写真提供:柴田佳秀

「それだったら、一年中食べものがある暖かい地域にいればいいじゃない」と思いますが、そこは資源も限りがありますし、ライバルも多く、自分のお腹を満たすのが精一杯。繁殖するには、子どもに食べさせる十分な量の獲物が必要になります。そこで、夏になるとたくさんの獲物が捕れる日本へ飛んできて、子育てをする選択になったのでしょう。

写真提供:柴田佳秀

渡りは、途中で悪天候にあうなど命を落とすリスクがある行動ですが、それでも魅力ある土地へたどり着けさえすれば、確実に子育てができるのですから、命をかけて毎年サシバは何千㎞もの旅を繰り返しているのです。

南へ渡るサシバが見られるのは、9~10月中旬までの間。よく晴れた日の午前中、もしかしたらトビのように、くるりと輪を描きながら秋の高い空を飛んでいる姿が見られるかもしれません。ただし、たいていはものすごく高い空を飛んでいて、ごま粒くらいの大きさにしか見えないので、双眼鏡でないとわからないかも。でも、ときどき「ピックーイ」と独特な声で鳴くことがあるので、もし、この声が聞こえればサシバであるのは間違いありません。

写真提供:柴田佳秀
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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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