こんにちは。科学ジャーナリストの柴田です。
「デーデーポッポー、デーデーポッポー」。
気持ちがいい秋晴れの日、開けた窓の外からのんびりとしたリズムのこんな鳴き声を聞いた覚えはありませんか?
これが今回、紹介する鳥のキジバトの声。のどかな雰囲気のせいか、この声に癒やされる人も多いとか。

キジバトは、公園などにいるドバトとほぼ同じくらいの大きさの鳥。首の両サイドにある黒と青の鱗模様がチャームポイントです。翼の茶色と黒の鱗模様が、キジのメスの模様に似ているので、この名前がついたと言われています。
孤独を愛するハトで、見るのは単独かペアであることがほとんど。みんなといっしょじゃないと気が済まないドバトとはずいぶん違います。主な食べものは草の種や果実。地面に降りて、歩きながら食べものをついばんでいる姿をよく見かけます。

とにかく、どこでも出会う鳥の一つで、北海道から沖縄まで全国のほとんどの地域に生息し、街や河川敷、農耕地、森林など暮らす環境はあまりこだわりがないみたいです。また、基本的に渡る習性がなく、1年中見られる鳥です。ただ、北海道などの雪が多い地方では寒い時期はいなくなります。

先日私は、沖縄県の西表島に行ってきたのですが、そこで出会ったキジバトの色があまりにも濃いのでビックリしました。これは日焼けして小麦色のマーメイドになってしまったのではなく、奄美大島より南の島々にいるキジバトは色彩が濃いんです。鳥は同種でも生息地が熱帯に近くなるほど色が濃くなる傾向があり、これは高温多湿の熱帯は羽毛にダニが発生しやすく、その対策だと言われています。色が濃くなるのは羽毛のメラニン色素が増えるためで、メラニンが多いとダニに食べられにくくなるんだそうです。

もしかしたら、この鳥の写真を見て、「あれ?山鳩っていうんじゃないの」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。たしかにキジバトは、山鳩とも呼ばれますね。今でこそキジバトは街中にもいる鳥ですが、じつはかつては山に行かないと見られないハトだったんです。

例えば、1955年頃までは、東京の都心部でキジバトが見られるのは冬に限られ、数も少なかったそうです。街中にいるドバトに対して、山にいるハトだから山鳩と呼ばれるようになったのでしょう。それが1970年代になると、渋谷や新宿といった東京都心部でも繁殖しだし、それ以降はすっかり街鳩に。これは全国の都市でも同じ傾向でした。

ではなぜ、山鳩が街でも見られるようになったのでしょうか。それは狩猟の影響だと考えられています。キジバトは今でも狩猟ができる鳥ですが、昭和20年代は食糧不足と誰でも所持できる空気銃が広まったことで、街中のキジバトが狙われ、いなくなってしまったのです。その後、1958年に法律が改正され、空気銃保持には狩猟免許が必要になり街中のキジバトは標的にならなくなりました。それからしばらくすると、次第に街でもキジバトの姿を見るようになり、繁殖までするようになったのです。それどころか、最近では足で踏んでしまいそうな距離でも逃げないキジバトもいて、ちょっと慣れすぎじゃないかと思うこともあります。

さて、とってものんびりと鳴いているように聞こえる「デーデーポッポー」ですが、実際にはそんな状況ではありません。この声を発するのはオスで、縄張り宣言と求愛のメッセージを込めて必死に歌っているのです。ですから、鳴くのはたいてい電線とか電柱の上、屋根のテレビアンテナなどの高い場所です。声がよく届く高い場所から効果的に宣伝するわけですね。けっしてのんびりと鳴いているわけではありません。

キジバトは、日本では珍しい1年中繁殖する鳥ですが、秋の9~10月は2回目の繁殖のピークに当たります。そのため、かなりひんぱんに鳴くので、癒やしの声を耳にする機会が多い時期です。また、鳴いた後に、パタパタと羽音を立てて飛び立ち、少し高度を稼いだら翼と尾羽を広げて滑るように飛ぶ、特徴的なディスプレイ飛行をすることがあります。飛ぶ姿がタカと似ているので、ときどきシジュウカラなどが勘違いして警戒声を出すことがあり、なかなか面白いんです。 鳴いているキジバトを見かけたら、ディスプレイ飛行をするかもしれないので注目です。

メイン写真提供:柴田佳秀

柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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