こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は、夏に一度は食べておきたくなる「冷やし中華」についてのお話です。
暑くなってくると、冷たい麺を食べる機会が急に増える。夏は火を使うと暑いので、あまり台所に立たずに、さっと作れる料理がよい。
冷やし中華は、素麺と並んで実家でよく出されるメニューだった。夏でも冷たい井戸水でしめた麺はキリッとしまっているが、畑から採れたばかりの野菜は太陽の熱を持っていて、こちらはちょっと生ぬるい。冷たい麺とトッピングの夏野菜のおかげで、外で遊んでほてった体が落ち着いた。
冷たい喉越しと程よい酸味が特徴的な冷やし中華の発祥については諸説あるが、仙台を発祥とする説が強いようだ。
東北といっても夏は暑く、さらに中華料理には熱い料理のイメージがある。店の売上が低下してしまっていた時に、「夏に売れる新しい中華はないか」と、中華料理組合員達の茶飲み話の中で生まれたそうだ。
仙台七夕のお祭りと重なり、観光客が多く集まる時期のために考案されたのが、冷やし中華だったという。
現在のチャーシューやキュウリの細切り、錦糸卵などを飾った「冷やし中華」のスタイルは、今も存在する神田神保町の揚子江菜館で生み出された「五色涼拌麺(五目冷やしそば)」がルーツと言われている。麺を中心に盛って放射線状に飾ることで「富士山」をイメージしているのだそう。彩り良く整然と盛られたトッピングは、夏バテしていても食欲をかき立ててくれる。
冷やし中華といえば、中華料理店などの店前に貼られる「冷やし中華はじめました」のポスターが印象的だ。最近ではSNSでも、家で作った冷やし中華をこの言葉と一緒に投稿し「冷やし中華はじめ」を教えてくれる人も多い。
このポスターの文言は、「冷やし中華あります」や「限定 冷やし中華」など、少し強めの言葉でもいいのに、売り手の気持ちは控えめに書かれている。なぜかこの言葉に乗せられて、つい冷やし中華を食べたくなってしまう。
実際、汗ばむ日差しの街中を歩いていて、お店の前にこのポスターが貼られていると「お、食べるか」とつい暖簾をくぐって注文したくなってしまう。涼しげなガラスに盛られた冷やし中華をすすると「あぁ、夏だなぁ」なんて、しみじみ実感する。
SNSで冷やし中華はじめの知らせを見れば、「私もそろそろ食べないと…!」と、材料を買い揃え、つられて作ってしまう。「母はどうやってキュウリを切っていたかな?」などと考えながら料理して食べると、家族で食べた風景や実家の台所の少し薄暗い様子や、流れこむ涼しい風までもがよみがえり、懐かしくなる。
まるで手紙で語りかけられるように伝えられるこの言葉には、不思議な力が宿っているのだ。
私たちは、旬の料理を通して季節に出合いに行くことができる。夏を代表する冷やし中華を食べることで、新たな季節の到来を楽しめたり、懐かしい思い出をよみがえらせたりすることができる。
「うちは冷やし中華、始めました。そちらはどうでしょうか?」
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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