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ザクロ

旬のもの 2026.10.06

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

秋が深まる頃、庭先の枝に朱い実がぱっくりと口を開けて、宝石のような粒をこぼしています。ザクロは、遠い異国の地から、人の手に連れられて渡ってきた果実。古今東西、豊かな実りと繁栄の象徴として、神話や祈りのなかで多く語られてきました。

遥かペルシャから旅してきた果実

ザクロは、ミソハギ科ザクロ属の落葉小高木。原産地は中央アジアから現イランのペルシャにかけての一帯とされ、紀元前2200年頃にはすでに栽培されていました。
中国には、古代イランの王国パルティア(紀元前3世紀~3世紀)からシルクロードを通じて伝わり、日本へは平安時代に渡来したといわれます。当初は薬用として、のちに花や実を愛でる庭木として広まりました。

中国語名の「石榴」「安石榴」は、パルティアの中国名「安息(あんそく)」に由来するとも言われます。「榴」は果実がゴツゴツして、瘤(こぶ)に似ていることから。和名の由来にも諸説あり、原産地のザグロス山脈を語源とする説や、石榴(セキリュウ)の音が転訛したという説があります。

日本では、乾かした樹皮や根皮を石榴皮(せきりゅうひ)と呼んで薬に用い、果汁は鏡を磨くのにも使われたといいます。果皮は染料にもなりました。絵師たちもこの実を好み、伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう/1716~1800年)は熟れ割れた果実の粒のひとつひとつまでを丹念に描いています。

タコウィンナーのような萼(がく)

ザクロは大きなものでは7m以上にも生育します。葉は長さ5㎝ほどの長楕円形で、秋には黄葉して紅い果実と美しく映え合います。花期は6~7月、径5㎝ほどの朱色の花を枝先に次々に咲かせ、薄くてしわのある花弁は通常6枚。結実する「両性花」は基部の「萼筒(がくとう)」がやや膨らみ、朱色で光沢のある先が6裂した姿は、まるでウィンナーでつくったタコのよう。ほかに結実しない「雄花」もあります。

果期は9~10月。径5~12㎝の球形で、先端に萼片が残ります。熟すと自然に裂け、薄膜の中から数百もの赤い粒が顔を出します。これを種衣(しゅい)といい、ひと粒ずつ種子を包んでいます。食用にするのはこの種衣で、クエン酸やリンゴ酸などの甘酸っぱい液を多く含みます。

鬼子母神とペルセポネ

ザクロは、洋の東西を問わず特別な果実として崇められてきました。
日本では、多くの子を養うために人の子を食べていた鬼子母神(きしもじん)が、お釈迦様に諭されて改心し、代わりにザクロの実を与えられて安産・子育ての神になったという伝承が知られ、鬼子母神像は今もザクロを手にした姿で表されます。仏教ではザクロを「吉祥果(きちじょうか)」と呼び、数えきれない種を抱くその姿を子孫繁栄の証としました。中国でも、実の割れた図柄を「榴開百子(りゅうかいひゃくし)」と呼び、婚礼や慶事を寿ぐ吉祥文様として、器や織物に描かれてきました。

一方、ギリシャ神話では、このように語られます。
冥界の神ハデスが、豊穣の女神デメテルの娘ペルセポネを地下の国へ連れ去りました。冥界のものを食べた者は、もう地上に帰れません。ハデスのすすめたザクロを数粒口にしたペルセポネは、一年のうち数ヶ月を冥界で過ごすことになりました。母が娘を想って嘆く季節が冬となり、娘の戻る季節に春が訪れる――。こうして地上に四季の巡りが生まれたのだとか。

ヨーロッパでも、ザクロは実りと再生のしるしでした。ルネサンスの画家たちは、聖母マリアに抱かれた幼子イエスの手に、その実を握らせました。

花言葉は「子孫の守護」「円熟した美しさ」「愚かしさ」「結合」

ザクロの花言葉は、花・果実共通して「子孫の守護」で、鬼子母神の伝説から。「円熟した美しさ」は色鮮やかで華やかな花姿への賛美です。
「愚かしさ」はペルセポネの過ちにちなみ、「結合」は、ひとつの果実の中に無数の種子がぎっしり並んでいる様子からの連想です。
歳時記では、初夏に咲く花を「花柘榴」、秋に熟す実を「柘榴」として、それぞれ夏と秋の季語にしています。

柘榴の粒 幾百食はば 寂しさ消ゆ――橋本多佳子(はしもと・たかこ/1899~1963年)

作者は、戦後昭和俳壇の代表的スターとして活躍した俳人。
粒を数えるようにして食べても、なお埋まらない孤独がそこにはある――。女性の悲しみや情念を格調高く大胆に詠んだ多佳子らしい、静かな迫力を持つ句です。多くの実りと命の願いを託されてきた果実が、ここではひとりの女性の胸の内を映しています。

ザクロ(石榴/柘榴)

学名:Punica granatum
英名:pomegranate

ミソハギ科ザクロ属の落葉小高木。中央アジアから現イランにかけての一帯が原産。日本へは中国を経て平安時代に渡来。花期は6~7月、枝先に径5㎝ほどの朱色の花を咲かせる。果期は9~10月。熟すと果皮が裂け、赤い種衣に包まれた多くの種子が現れる。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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