季節の和菓子帖とは?
年中行事と、結びつきのある和菓子を毎月ご紹介します。
あの頃食べたなと懐かしく思う気持ち、どんな味がするんだろうとワクワクする気持ち。
暮らしの中の行事を楽しみながら、その季節でしか食べられない和菓子を味わってみませんか?
年中行事 「お彼岸(おひがん)」
お彼岸とは年に2回、春と秋におとずれる年中行事です。秋のお彼岸は、秋分の日を中日とした前後3日の7日間のことをいいます。この期間には、お寺やお墓参りに行き、ご先祖様の供養を行います。
仏教では、ご先祖様がおられる川の向こう側のことを「彼岸」、私たちがいる現世を「此岸(しがん)」といいます。彼岸は西に、此岸は東にあると考えられており、陽が真東から昇り真西に沈む秋分の日は、彼岸と此岸がもっとも通じやすいことから、この日にお参りをするようになったといわれています。
また、秋分の日は「祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ」ことを趣旨とした国民の祝日です。そして、その前日には「多年にわたり社会に尽くしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」として敬老の日があります。できる範囲で、家族や親戚で集まったり、贈り物をしたり、電話やメールなどで感謝の気持ちを伝えたりと、大切な時間を過ごしていただければと思います。
和菓子「おはぎ」
お彼岸に食べるお菓子といえば、「おはぎ」を思い出すかたが多いのではないでしょうか。私もその1人で、子どもの頃から母親のつくるおはぎが大好きで、よく食べていました。
お彼岸におはぎを食べるのはなぜでしょうか。
「土用」の特集の時にも触れましたが、小豆の赤い色には魔除けの意味があります。
そのことから、お彼岸時にもお供えするようになりました。また、「あんこ」と「もち米」を合わせてつくるので、ご先祖さまと私たちの心を合わせる(つなぐ)意味もあるそうです。
ご先祖様のことを思いながら、おはぎを味わえば、今、自分が存在しているありがたさやご縁を感じることができそうですね。
では、おはぎとぼたもちの違いは?
既にご存じのかたも多いと思いますが、これには諸説あります。あんこの違い(おはぎはつぶあん、ぼたもちはこしあん)という説や、大きさの違い(おはぎは小ぶりで、ぼたもちはぼてっと大きめ)という説。それからお米の種類の違いや、米のつぶし加減の違いという説などさまざまです。
その中に、おはぎもぼたもちも同じだけど、季節に合わせて呼び方を変えているという説があります。「春は牡丹餅(ぼたもち)」、「夏は夜船」、「秋はお萩」、「冬は北窓」。とても趣がありますよね。
今回は、各地で出会った美味しいおはぎをいくつかご紹介します。日持ちのしない商品であることから、ネットでは購入できないお店ばかりですが、できるだけ通年で販売をしているお店を選びました。
遠方のかたは、旅行などで近くにいらしたときに、ぜひお立ち寄りください。お彼岸の時期には、お近くの和菓子屋さんやおはぎ屋さんに、おはぎを買いにいってみてください。
甘味おかめ(かんみおかめ)
【 おはぎ(つぶ餡、きなこ、胡麻) 】
昔ながらの「おはぎ」を食べたいというかたに、おすすめのお店。
「甘味おかめ」さんの「おはぎ」はとても大きい。大まかに計測したところ、約9センチの大きさでした。最近は小さめの「おはぎ」が主流ですが、子どものころに家で食べていたのは、こういう大きな「おはぎ」だという方も多いのではないでしょうか。私も、この「おはぎ」を初めて味わったときには、懐かしい気持ちになりました。
「甘味おかめ」さんでは、注文してから「おはぎ」をつくってくれます。出来立ての「おはぎ」は、ほんのりと暖かくて、口の中でほろほろとほどける柔らかさ。大きさの割に、軽く食べられます。
また、テイクアウトもおすすめ。つぶ餡の「おはぎ」は、餡や餅米がしっとりとまとまり、甘さが少し和ぐように感じます。きな粉や胡麻の「おはぎ」には、食べる直前に別添えのきな粉や胡麻をふりかけると、ふんわりと香ばしさを感じます。このように、「出来立て」とは異なる美味しさを味わえるのです!
【 店舗情報 】
東京都千代田区麹町1-7(麹町店)
【 お店の紹介 】
昭和22年(1947年)創業。東京・深川の甘味処が前身で、戦後に有楽町で「おかめ」を創業。先代は、暮らしのなかで使う物に「用の美」を見出す「民藝運動」に共感していたそうです。そのことから、地方の旧家の一部を移築して内装に活かしたり、家具、道具、食器などに民芸を取り入れたりしています。現在、東京都内に4店舗を構えています。
かさぎ屋(かさぎや)
【 三色おはぎ(三色萩乃餅) 】
京都にも、美味しい「おはぎ」をつくる和菓子屋さんやおはぎやさんがいくつもあります。その中で、東京の「おかめ」さんと同じように、少し懐かしい気持ちになるような「おはぎ」をつくる店は・・・と考えたときに、最初に思い出したのが「かさぎ屋」さんです。
「三色おはぎ」の種類は、つぶあん、こしあん、きなこ(冬は白小豆)です。北海道産の大納言を使用し、時間をかけてこしらえた、つやつやとして、すっきりとした甘さの餡。つぶあんからは、豆の味の力強さも感じます。最初は食べきれるかな・・・と少し心配になりましたが、難なく食べられました。ほっこりとする味わいです。
【 店舗情報 】
京都府京都市東山区桝屋町349
【 お店の紹介 】
大正3年(1914年)創業。清水寺に近い、二寧坂にお店を構えています。レトロな店内では、大正時代からほとんど変わらないメニューとおもてなしをしており、「大正ロマン」を代表する画家、竹久夢二も通ったそうです。
タケノとおはぎ
紛れもない人気店ですが、「変わりおはぎ」の代表選手として「タケノとおはぎ」さんをご紹介します。
店頭には毎日7種の「おはぎ」が並びます。こしあん、つぶあんが定番。残りの5種は日替わりです。まさに一期一会。SNSなどで見かけたお目当てを買いに行くよりは、今日はどんな「おはぎ」があるかなぁ・・・と、出会いを愉しむ気持ちで訪問するのがおすすめです。
デリカテッセンをヒントにした発想で、様々な材料を用いて味を組み立て、餡を花のように絞るなど、オリジナリティに溢れた「おはぎ」は華やかで美味しい。
丸いわっぱ型の容器にマスキングテープというパッケージもかわいいです。
オープンから数年経った今も、常に進化を続けています。売切り終了なので、早目の時間に訪問することをおすすめします。
【 店舗情報 】
東京都世田谷区桜新町1-21-11
【 お店の紹介 】
平成28年(2016年)創業。現在は、東京の桜新町と、学芸大学前にお店を構えています。いまや、全国に「進化系おはぎ」や、「変わりおはぎ」と呼ばれる「おはぎ専門店」が登場しましたが、東京の「タケノとおはぎ」さんと、大阪の「森のおはぎ」さんは、新しい時代の「おはぎ」の先駆者だと言えます。
仙太郎(せんたろう)
【 おはぎ(粒、きなこ、七穀) 】
美味しい「おはぎ」を販売し、比較的、店舗数の多いお店の代表として、「仙太郎」さんをご紹介します。
「仙太郎」さんの「おはぎ」は通年で販売されています。粒ときなこは全店舗にありますが、七穀は一部店舗限定です。
共通の特徴は、ごはんに青じそが入っていること。餡はやや甘めですが、青じそがアクセントになり、さっぱりと味わうことができます。きなこは黒豆きなこを使用しており、香りがよく、コクがあります。七穀は、黒米、あわ、きび、ひえ、大豆に、小豆と餅米を加えて七穀。つぶつぶ、ぷちぷちとした食感がたのしいです。
【 店舗情報 】
京都市下京区寺町通仏光寺上る中之町576(本店)
【 お店の紹介 】
「仙太郎」さんの各店舗には「身土不二」という言葉が掲げられています。これを、短くまとめると、見た目の美しさより、美味しさを大切にし、身体にやさしいお菓子をつくる・・・という意味だそうです。この言葉どおり、「仙太郎」さんでは、安心、安全な材料を自社農場で栽培や近郊から仕入れてつくることを意識されています。京都に本店、関西、名古屋、東京の百貨店などに販売店を構えています。代表銘菓は、最中に自分で餡をつめる、「ご存じ最中」。
みよしの
【 五色おはぎ 】
素材の美味しさをひきたてた、上品な「おはぎ」の代表として、「みよの」さんの「五色おはぎ」をご紹介します。味は、こしあん、つぶあん、ごま、青のり、きなこの5種がセットになっています。
天然の色が美しく、小ぶりで丸い見た目がとても上品です。5つの「おはぎ」は、それぞれ、見た目、香り、食感、味がとても個性的で、味わうのがとても愉しかったです。
まず、こしあんとつぶあんの、美しい薄紫色に目を惹かれました。こしあんは、とてもさっぱりとしていて、ほんの少し塩気があります。一方、つぶあんは、小豆をかなり潰してあるのですが、皮が残っている分、小豆の力強さを感じました。きなこは、香ばしさと餡がベストマッチ。ごまは、白ごまを炙ったものを使っており、つぶつぶ、ざくざくとした食感です。青のりは、食べたときに、口の中にも爽やかさが広がりました。とても印象深い「おはぎ」のひとつです。
【 店舗情報 】
愛媛県松山市二番町3-8-1
【 お店の紹介 】
昭和24年(1949年)創業。一見、落ち着いた、小料理屋さんのような雰囲気の店構えです。はじめて伺ったときには、できあがったばかりの「五色おはぎ」を、女将さんともう一人の女性が、丁寧につつんでいたところでした。お店に入った途端、青のりの香りがふわ~っと香っていました。忘れられない思い出の1つです。
石谷もちや
【 昆布おはぎ 】
地域を感じられる「おはぎ」の代表として、「石谷もちや」さんの「おはぎ」をご紹介します。小豆、つぶあん、きなこ、ごまの「おはぎ」もありますが、一番おすすめしたいのは「昆布おはぎ」。
黒とろろ昆布、白とろろ昆布、きざみ昆布をまとっていて、一見、「おはぎ」というより、昆布のおむすびに見えます。見た目は地味ですが、富山の美味しいものの1つである「とろろ昆布」ですし、「石谷もちや」さんの商品なら美味しいはず!と、興味津々で味わってみました。
ふわっとした昆布。餅の中にはこしあんが入っていて、昆布の旨味と塩気とこしあんの甘さの組み合わせが絶妙なのです。一度味わうと、きっと、また食べたくなる、「昆布おはぎ」。富山に行ったらぜひ食べてみてください。
【 店舗情報 】
富山県富山市中央通り1-5-33
【 お店の紹介 】
明治後期創業。富山市にお店を構える、餅菓子の専門店です。材料には、小豆やもち米だけでなく、水にもこだわり、心をこめたお菓子づくりをしています。店頭には、ワクワクするほど、たくさんの餅菓子が並んでいます。
梅田なお実
和菓子ライフナビゲーター・デザイナー
東京都出身。好きな季節は初夏。「毎日が和菓子日和」主宰。
全国の和菓子屋さんを訪ね、繋がりをつくりながら、味わった和菓子のイラストや記事を描き、和菓子の魅力を広める為のイベント等、様々な活動を行っています。
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