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バイカモ

旬のもの 2026.09.03

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

夏の日差しが川面を照らす頃。せせらぎの音が聞こえる中で、バイカモ(梅花藻)がウメに似た清楚な花を咲かせています。清涼な流水に生きるバイカモは、群れをなして静かに揺れ、この季節ならではの、凜とした涼やかさをもたらしてくれます。

花は梅、葉は藻のような水中花

バイカモは、キンポウゲ科キンポウゲ属の常緑性多年草。北海道から本州にかけて分布する日本固有の水生植物です。一年を通じて水温約14度前後に保たれる、清冽な川や湧き水を好んで水底に群生し、流れに沿って這うようにして成長します。

なかでも滋賀県米原市の醒井宿(さめがいしゅく)を流れる地蔵川(じぞうがわ)や、静岡県三島市の湧水地は、その群生地として広く知られています。

和名は、花の形がウメの花に、葉が藻に似ていることに由来し、別名にウメバチモ(梅鉢藻)。学名はRanunculus nipponicus var. submersus(ラナンキュラス・ニッポニクス・スブメルスス)。属名のラナンキュラスは、ラテン語で「蛙」を意味するranaに由来。蛙が多く棲むような水辺に生えることにちなみます。種小名のニポニクスは「日本の」、変種名のスブメルススは「沈水生の、水中の」を表します。

絨緞のように広がり、涼やかに咲く

バイカモは、水中に茎を長く伸ばし、節ごとに根を下ろしながら水底を這うように広がっていきます。細い茎は1〜2mほどにまで伸びることがあり、群生地では川底一面に緑の絨毯を敷き詰めたかのように見えます。葉は糸状に裂けて全体としては房になり、水の流れの中では藻に似てはっきりしません。

開花期は5月から10月頃までと長く、見頃は7月から9月にかけて。葉の腋から伸びた3~10㎝ほどの花茎の先に、一輪ずつ花がつきます。花は径1~2㎝の白い五弁花で、中心は黄色く、多数の雄しべと雌しべ、そして5つの萼(がく)があることが特徴。流れの穏やかなところでは水面に立ち、流れの速い場所では水中に沈んで花を咲かせます。

5~7月に採れる若い茎や葉そして花や蕾も、お浸しや酢の物、天ぷらとして食べることもできます。ただし自生地が減っているため、今日ではその美しさを愛でるだけにいたしましょう。

ヤマトタケルとバイカモの咲く清水

先に触れた醒井宿は、旧中山道61番目の宿場町。伊吹山系と北鈴鹿に囲まれ、風情ある町並みを、「居醒の清水(いさめのしみず)」を源流とする地蔵川がゆるやかに流れています。地蔵川は、バイカモと共に絶滅の危機にある淡水魚ハリヨ(トゲウオ科)も生息していることで知られます。どちらも汚れた水の中では生きていくことができません。

『日本書紀』『古事記』では、ヤマトタケルは伊吹山の荒ぶる神を侮ったために、大きな痛手を負って山を下り、麓の泉にたどり着いて傷を癒したと語ります。そのため「居醒の清水」と呼ばれるようになったとか。

花言葉は「幸せになります」

バイカモの花言葉の由来は、はっきりとは分かっていません。おそらく、澄んだ水の中に咲く、小さく控えめな白い花からの連想なのでしょう。

梅花藻や かがむ男と 佇つをんな

1936年生まれの俳人、内田美紗(うちだ・みさ)氏の作品です。
バイカモの花が揺れる清流のほとりにて、男は屈み、女はその傍らに立つ。ただそれだけの一瞬の情景が、鮮やかに切り取られています。「動」と「静」、対照的な二つの姿を配置することで、二人の関係性や空気感まで見えてくるようです。 無邪気に川をのぞき込む男の背中を、立つ女は優しい眼差しで見つめているのかもしれません。二人がやがてこの場を去ったあとも、このひとときはバイカモの咲く水の流れのようにきらめき続けることでしょう。花言葉の「幸せになります」が、静謐に響いてくるような一句です。

バイカモ(梅花藻)

学名:Ranunculus nipponicus var. submersus
英名:Japanese water crowfoot

キンポウゲ科キンポウゲ属の常緑性多年草。北海道から本州にかけて分布する日本固有の水生植物。清冽な川や湧き水を好む。花期は5~10月。3~10㎝ほどの花茎の先に、一輪ずつ径1~2㎝の白い5弁花を咲かす。滋賀県・醒井宿の地蔵川の群生地が知られる。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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