ストーンヘンジで夏至がわかる?
イギリスのストーンヘンジは謎めいた石造建造物です。円環状に巨石をならべたのはなぜか。さまざまな学説があるなかで、夏至と冬至を知るための目安であったことは共通に支持されています。円環の中央に立って見たとき、夏至と冬至の日の出、日の入りの方角がわかるように石を配列したというものです。
日の出・日の入りを知る構造物
ヨーロッパの新石器時代には各地にこのような円環状の構築物がつくられました。ドイツ東部のゴゼック・サークルもそのひとつです。1991年に航空写真でその存在が確認され、2002年から本格的に発掘がすすみ、2005年から一般公開されました。現在は木柱が二重に円環状にならんでいます。木柱の切れ目から冬至の日の出・日の入りを知ることができる装置なのです。紀元前、4900年頃につくられ、2~3世紀にわたって使用されていたようです。
円環状構造物での儀礼・祭礼
ゴゼック・サークルの内側では火の儀礼がおこなわれていた痕跡が発掘されました。獣骨や人骨も発見されました。南東の出入口には首なしの人骨が見つかり、人身供犠の名残だと解釈する説も登場しました。他方、ストーンヘンジのほうは今から約300年前、古代のドルイド教の神殿であるという説が提示され、近年、ネオ・ドルイド教徒を自称する人々が夏至の日に日の出を拝む祭礼をおこなうようになりました。ドルイド教では男神と女神の結合、すなわち太陽と大地の結合を一年でいちばん長い日に祝うのだそうです。
各国での夏至の風習
北半球では夏至はいよいよ夏に向かう節目であり、豊穣を象徴するような儀礼がくりひろげられてきました。北欧のスェーデンやフィンランドでは夏至が国の祝日になっています。そのスェーデンでは夏至にメイポールのような木柱のまわりを踊る風習があります。しかも、木柱は男性的象徴物であるとみなされています。夏至から9ヵ月目に子どもがたくさん生まれるといわれる理由がそこにはあるのです。またポーランドでは未婚の女性が川に花冠を流し、対岸の男性がそれをとろうとする風習があります。夏至はどうやら性の開放を示唆する行事にいろどられているのです。
日本の夏至
ひるがえって日本では、二見浦の夫婦岩のあいだから朝日がのぼるのが夏至の時期です。夏至の日には毎年「夏至祭」がおこなわれます。これは二見興玉神社の神事です。白装束の善男善女が祝詞を唱えながら海につかり、夫婦岩の日の出を拝みます。これも夫婦円満の御利益にあやかった習俗だと解釈すれば、子孫繁栄につながる行事ということになります。
百万人のキャンドルナイト
近年、日本では夏至の晩に2時間、キャンドルをともす運動がはじまりました。省エネ、エコにつながる、ささやかな実践です。「百万人のキャンドルナイト」はスローライフの思想とも呼応しています。その呼びかけには「ロウソクのひかりで子どもに絵本を読んであげるのもいいでしょう。しずかに恋人と食事をするのもいいでしょう。」とあります。ここにも恋人がでてきます。夏至の日は、日の出からはじまりキャンドルナイトまで、ロマンチックな性格を帯びているようです。
中牧弘允
文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。