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山笑うやまわらう

季語 2022.03.12

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こんにちは、こんばんは。
ライターのくりたまきです。

「山笑う」という言葉は、春の山の草木が一斉に若芽を吹いて、明るい感じになる様子を表しています。俳句の季語として使われている言葉です。明治時代の俳人・正岡子規の詠んだ俳句をひとつご紹介します。

故郷(ふるさと)や どちらを見ても  山笑う

正岡子規が自身の故郷である松山(愛媛県)の春を想って詠んだ句です。明るい春の山の風景と、故郷への愛着が感じられます。

わたしが東京を離れて長崎県波佐見町に住みはじめて、もうすぐ2年。山々に囲まれた焼きものの町で暮らしていると、縁もゆかりもなかったこの場所が、なんだかもう故郷のように思える瞬間があります。だからこそ、正岡子規の思いや彼が見ていた風景が、以前よりもあざやかにイメージできるのです。

空が明るい時間が増え、山の木々のなかにモザイク画のように梅や桜などの花々が咲き、足元を見ればふきのとうやワラビなどの山菜が生えている。そんな風景に身を置くと、目に見える世界360度が「山笑う」に感じられます。

花の一輪、黄緑色の葉の一枚、山菜の一本の明るさは、人が声を上げて「笑う」とたとえたくなるものではありません。もっとちいさくて淡い微笑みのよう。けれど春のあたたかさに導かれて、花々が一斉に花開き、さびしげだった木々が芽吹き、いたるところで土を持ち上げて山菜が生え……そのすべてを遠景で眺めたとき、「笑う」と表現がしっくりとなじむ気がします。

また、山を眺めて「山笑う」と感じる人の心にも、春の穏やかさが影響しているのではないでしょうか。

水の刺すような冷たさがやわらぎ、まとう服の枚数が減って軽やかになり、野菜や山菜が収穫でき……そんなうれしい変化のなかで山を眺めるとき、「山が笑う」のと同じように、わたしたちの口元もゆるんでいるのだと思います。

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栗田真希

ライター
横浜出身。現在は東京、丸ノ内線の終着駅である方南町でのほほんと暮らす。桜をはじめとした花々や山菜が芽吹く春が好き。カメラを持ってお出かけするのが趣味。OL、コピーライターを経て現在はおもにライターとして活動中。2015年準朝日広告賞受賞、フォトマスター検定準一級の資格を持つ。

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