個人に誕生日があるように国家にも創立の記念日があります。
革命記念日や独立記念日といった一般的な名称もあれば、中国の国慶節や韓国の光復節のように独特な呼び方もあります。バスチーユ牢獄襲撃の日を記念するフランス国民祭(いわゆるパリ祭)も比較的よく知られています。
ドイツには1990年の東西ドイツの統一を記念する日がもうけられています。その一方、建国記念日をもたないイギリスのような国もあります。ざっと見ただけでも国家の成立は一筋縄ではなく、記念日の多様な名称がそれをよく示していると言えます。
日本には国家の誕生日があります。それが現在の「建国記念の日」であり、戦前は紀元節と呼ばれていました。いずれも2月11日ですが、実は過去には1月29日を紀元節としていた年がありました。くわしく見てみましょう。
明治改暦は明治6年(1873年)1月1日になされました。その前年、11月9日(太陽暦12月9日)に天皇から改暦の詔書がくだされ、同日付で太政官から公布されました。
その6日後、11月15日(太陽暦12月15日)に、太政官布告で神武天皇の即位を記念する祝日は太陽暦1月29日に相当する旨が発せられました。
その理由は、旧暦の元日だったからです。というのも、神武天皇が橿原宮に即位したのは、『日本書紀』によれば辛酉年の春正月の庚辰の朔(ついたち)とあるからです。明治6年の暦には1月29日の欄外に「神武天皇即位日」と記されています。
当時の実態としては、改暦があまりに急だったため、便宜的に旧暦(天保暦)の正月1日に定めたとみることができます。実際、その日に祭典もおこなわれました。
他方、旧暦の太陽暦換算も急ピッチで進められ、明治6年3月7日には名称を「紀元節」と称することに決め、6月9日には祝日を2月11日に定めることが布告されました。
紀元節という命名は神武天皇即位紀元からきています。それは即位の日を暦のスタートとする紀年法ですが、略して神武紀元あるいは別称で「皇紀」とも言います。西暦に換算すると紀元前660年にあたります。
明治7年は神武天皇即位紀元2534年でした。明治7年庚戌太陽略暦の表紙裏からはじまる暦首の部分を見ると、神武天皇即位紀元を先に置き、年号は二行に分けて小文字で記しています。このことから神武紀元が正式で、年号が略式のあつかいとなっていることがわかります。
紀元節の祭は宮中で天皇みずから皇族や官僚を従えておこない、神楽の奏楽がありました。明治22年(1899年)には紀元節の日に大日本帝国憲法が発布され、大正3年(1914年)からは伊勢神宮をはじめ全国の神社でも紀元節祭がおこなわれるようになりました。
しかし戦後、それまでの祝祭日は廃止され、昭和23年(1948年)7月20日、新しい9つの「国民の祝日」が公布・施行されるようになりました。ただし、紀元節をうけつぐ「国始の日」は保留となりました。
その後、紀元節復活の動きは国会の内外でくすぶりつづけ、昭和41年(1966年)12月9日に、敬老の日・体育の日とともに「建国記念の日」が制定されました。この間、さまざまな議論がありましたが、建国記念日ではなく「の」を入れて与野党の妥協がはかられました。
その意図は「建国されたという事象そのものを記念する日」とも解釈できるようにした点にあります。かくして「建国をしのび、国を愛する心を養う日」として2月11日は「国民の祝日」に加えられました。
紀元節と「建国記念の日」は季語として俳句にも詠まれています。
むらさきの山河建国記念の日(井上弘美)
【参考文献】
岡田芳朗『明治改暦―「時」の文明開化』大修館書店、1994年。
中牧弘允
文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)など多数。
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