今年の十五夜は、9月17日です。
今の季節は空気が澄んでいて、一年で最も月が美しい時期とされます。
暑すぎた夏を過ぎて、夜空に浮かぶ月に、虫の声と涼やかな風。十五夜を迎えて、ようやく秋らしさを実感できるようになりました。

そもそも古くは、古代中国の頃から秋の美しい月を愛でる風習があったとされ、それが唐の時代(618-907)に盛んになり、「中秋節」といって旧暦8月15日の名月が多くの詩に詠まれました。
そんな中秋節の行事が日本に伝わったのは、奈良から平安時代のころ。当時の貴族社会に受け入れられ、貴族たちは観月の宴を開いてお月見をしたり、名月を詩に詠んだりして、十五夜を楽しんでいました。

庶民にまで十五夜のお月見の風習が広まったのは、江戸時代。
江戸後期の年中行事の解説書である『東都歳事記』(1838)には、船でお月見を楽しむ人もおり、江戸の各所がお月見で賑わっているとあります。そして、家々では団子やお神酒、ススキなどを月に供えるとのこと。
この頃には、現代のお月見のイメージに近いかたちで行事が行われるようになっていました。

十五夜は別名「芋名月」とも呼ばれます。
芋とは里芋のこと。もともと、秋はちょうど里芋の収穫期にあたるため、古くから里芋の収穫祭が行われていたとされ、そこに月見の文化が合わさり、現在のような十五夜の行事になっていったという説もあります。
そのため、十五夜のお供えも古くは里芋などの作物が中心でしたが、江戸時代の後半になると、団子のほうが目立つようになっていきました。

関東でよく見られる丸いお団子は、十五夜の月を表しているとも、月餅などの丸い食べ物を供える中国の中秋節の風習に由来するとも、諸説あります。
十五夜にちなんで、15個を積み上げる地域もあれば、一年12ヶ月にちなんで12個、閏年には13個という地域もあり、その習俗は土地によりさまざま。
一方、現在の関西では、里芋型の団子にあんを巻きつけた月見団子が定着しています。江戸時代後期には、里芋型の団子に、砂糖を加えたきな粉をまぶした月見団子が食べられていましたが、昭和の中頃にあんを巻いた月見団子が考案され、その後、関西一円に広まったと考えられています。

静岡県には、「へそもち(へそ団子)」という、独特な月見団子が伝わっています。
これは、上新粉をこねて、団子の形に丸めてから平たく押しつぶし、中央をへそのようにぎゅっとへこませて、蒸して作られます。真ん中のへこみがちょうどよく、そこに小豆餡をのせて食べるのだそう。
由来は定かではありませんが、駿河地方にゆかりの深い徳川家康に関係するという説も。幼い頃、食が細かった家康が食べやすいように、この形が生まれたともいわれています。

もちろん沖縄でも、十五夜の行事が行われます。
欠かせないお供えは、たくさんの小豆をまぶした「フチャギ(吹上餅)」というお餅です。無事に作物を収穫できた喜びや、秋の実りへの感謝を込めて、火の神様「ヒヌカン」、仏壇、床の間などにフチャギをお供えします。
フチャギは、沖縄のもち粉を水で練って小判型に整えて蒸し、塩茹でした小豆をたっぷりまぶしつけて作ります。伝統的なものは特に甘いわけでもなく、とても素朴な味。近年はいろいろな味のフチャギが登場しており、黒糖、紅芋、ヨモギなどは、そのまま食べてもおいしいですよ。

十五夜のおもしろいところは、その文化が日本だけでなく東アジアに広がっていること。
現在の中国では、中秋節は春節(旧正月)に次ぐ大きな行事になっています。満月にちなんで家族の円満と結びつけ、「団欒節」と呼んで家族で集まって行事を祝う風習があります。
特に、月に見立てたアヒルの卵の黄身が入った「鹹蛋月餅(タンファン月餅)」は、中秋節ならではのお供えもの。月を眺めて、お供えした月餅や果物を家族で食べたり、月餅を贈り合ったりする習慣もあります。

一方、韓国では、中秋節を「秋夕(チュソク)」と呼びます。先祖供養とも結びついており、日本でいうお盆のような意味合いの行事になっています。
チュソク前後は連休のため、都会に暮らす子どもたちが実家に帰省して、親戚一同が集まって先祖のお墓参りをしたり、秋の収穫に感謝したりして、賑やかに食卓を囲む場面も多いそう。
その時に欠かせない伝統的な行事食が「ソンピョン」です。
ソンピョンは、米粉を熱いお湯でこねて作った生地にあんを入れて丸め、松葉を敷いた蒸し器で蒸しあげて作ります。秋に収穫したばかりの新米で作るのが伝統で、豊かな実りに感謝してお供えされるのです。
このように、同じ月を眺めながら、世界各国、日本各地、さまざまな形で十五夜を過ごしています。私たちも美しい月の下で、豊かな収穫に感謝し、先祖とのつながりに思いを馳せ、大切に喜び合える十五夜にしたいですね。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
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