「朔(さく)」は地球からみて、月と太陽が同じ方向にならぶ時刻で、朔を含む日が朔日(さくじつ、ついたち)です。
朔日は「ついたち」とも読みますが、その由来は月が立つ日で、「月立ち」です。逆に月の最終日を晦(つごもり)と呼ぶのは「月籠り」からきています。
実際にみえることはないので、三日月からさかのぼって数えたことから、月がさかのぼると書いて「朔」。また月が一周して元に戻ったことを示すので、朔は「一」と同じで、「はじめ」を意味する言葉でもあります。
新月は肉眼で見ることはできませんが、昼間の太陽と一緒に空を回っています。
朔日に関する言葉は以下の通りです。
正朔
正月朔日のことを「正朔(せいさく)」といいます。睦月一日のことで元日、新しい一年の始まりを表す言葉です。朔旦(さくたん)は元日の朝を意味します。
朔日草

福寿草の呼び名です。ちょうど旧暦の元旦頃(2月初旬)に咲くため、古くは元日草(がんじつそう)、または朔日草(ついたちそう)と呼ばれていました。
氷の朔日

水無月一日は、氷の朔日。別名「氷室(ひむろ)」とも呼ばれます。真夏日の始まりで、山の室に保管していた氷を運び出して天皇に献上する日でした。冷蔵庫がなかった時代、氷は大変な貴重品でした。
夏の夜の夢として語られる能楽の『氷室』は、氷室を守っている氷室明神が出てきて舞う、氷の神のファンタジー。和菓子の「水無月」は、この氷を模した三角形の外郎(ういろう)です。
わたぬき
四月朔日は「わたぬき」と呼ばれ、冬の着物から綿を抜いて袷(あわせ)に戻す日でした。平安時代は衣だけでなく建具や調度品もすべて夏仕様に変える「更衣の節」が行われていました。西暦では5月のGWの頃にあたりますので、今でも衣替えの季節であることに変わりはありません。
朔日道
七月朔日はお盆にご先祖様をお迎えするため、この日までにお墓から家までの道の草刈りをすることから、お朔日道(おついたちみち)といいます。西暦では8月頃。草刈りの季節です。
八朔
八月朔日は、略して「八朔(はっさく)」と呼ばれます。ちょうど台風の季節なので、この日に吹く強風を八朔と呼ぶ地方もあります。
本格的な収穫が始まる前に、早稲をいち早く神に捧げ、台風の被害ないように祈り、豊作を願う行事が各地で行われてきました。田の実の節供ともいい、田の実に「頼み」をかけて、お世話になった人や恩人に贈答する風習も生まれました。
古くはこの日から夜なべ仕事を始めるなど、農事における重要な節目とされていましたが、この日に家康が入城したことから、江戸時代には諸大名が白帷子の正装で江戸入城する大事な儀式の日となり、正月に次ぐ祝日とされました。
衣替え
十月朔日。現在の11月初旬にあたります。かつては四月一日と十月一日が重要な更衣の節でした。セーターやコートを出して冬物に入れ替える季節です。
朔風
陰陽五行の方角で、朔は真北を意味するので「朔風(さくふう)」といえば、北風のことをさします。冬の冷たい木枯らしが吹き始め、木の葉を払い始めます。
朔旦冬至
冬至の日に旧暦十一月の朔(新月)が重なることを朔旦冬至(さくたんとうじ)といいます。古代においては真北にあたる冬至や、霜月の月初めを起点に一年が始まると考えていたため、その両方が重なることはおめでたい吉日とされていました。次の朔旦冬至は2033年で、19年に一度、巡ってきます。
お朔日参り
毎月ついたちに神社にお参りすることを、お朔日参り(おついたちまいり)といいます。かつては各月が始まる新月の日もお参りでしたが、現在は西暦の1日に行われることが多くなっています。
文責・高月美樹