梅の風格は枝ぶりにあり。梅の木はゴツゴツとした樹形に品格があって、花が咲いていなくても、その見事さに見とれてしまうことがあります。
梅が枝(うめがえ)という言葉もあるように、その風格ある枝にポッポッと咲くのは、丸い五弁の花びらと中央のめしべ。花といえば、梅。完成されたシンプルな形はしばしば家紋や文様に用いられてきました。
梅は姿も香りも、清らかさの象徴です。

ところで、冬の寒い季節に友とすべき3つのものとして「歳寒の三友(さいかんのさんゆう)」とされたのが、松竹梅でした。風雪に耐えながら鮮やかな緑を保つ常磐の松、節目をつけてまっすぐに成長する竹、そして寒さの中でどの花よりも早く、香り高く咲く梅。

その語源は孔子の『論語』にあります。厳しいときに支えてくれる三人の友とは正直につきあえる友、困ったときに親身になって動いてくれる友、博識で冷静な判断をしてくれる友。
友人の有り難さは本当に困ったとき、苦境に陥ったときにこそわかるもの。この三友を松竹梅にたとえ、いかなる困難にも耐え忍ぶ、志の強い人を象徴する文人の理想の姿とされ、しばしば絵に描かれていましたが、やがて寿ぎのシンボルとなっていきました。

なかでも梅は清友(清らかな気持ちで交際する友人)ともいわれ、木の花の中でまっさきに咲くことから尊敬をこめて「花の兄」と呼んだり、苦境にあっても辛抱強く学び、心の花を咲かせる人になぞらえて「好文木(こうぶんぼく)」、「花儒者」ともいいます。どれも尊敬が伝わってくる呼び名ですね。
また梅には雪にまつわる異称も多く、「香雪」、「氷花」、「雪中君子」などの異名があります。梅の花はごくわずかな気温のゆるみを感じて、どの花よりも早く咲き始めますが、しばしば、咲いた後に雪が降ります

咲き出した梅の花に、雪が積もる。これが長年、繰り返されてきた季節の風景です。「雪中の梅」は平安時代から愛しまれてきた光景であり、それがかさねの色目にも表現されています。表が白で、裏が薄紅。真っ白な雪と、その下にある紅梅の色が「雪の下」です。

梅の「香雪」に対する逆の言葉として、雪には「不香の花」という表現もあるほど、「雪と梅」は関わりの深いもの。
雪をかぶった梅の花はチリチリと縮れたように凍りつきますが、やがて雪は溶け、そこからまたたくましく咲き出して、見事な満開を迎えます。その姿は厳かであり、つつましやかであり、昔の人はごく自然に尊敬の念を抱き、励まされたのではないでしょうか。

一方、同じ名前を持つ植物、ユキノシタは水辺を好んで咲く初夏の花。小さな白い花が丸い葉の上にパラパラと散らばるように咲きます。その姿はたしかにちらつく雪にも似て、涼しげですが、名の由来は雪の下でも葉が枯れずにあるからだそうで、この葉は天ぷらにして食べられます。
植物のユキノシタは虎耳草(こじそう)、井戸草(いどぐさ)などと呼ばれ、昔は火傷、凍傷、かぶれ、湿疹、虫さされなどの消炎、解毒剤として池の縁や井戸端など、さっと採りにいける場所に植えられていたそうです。こうした民間薬は永らく忘れ去られてきましたが、また注目される時代になりつつあるようです。

私は可憐なこの花を「小さなバレリーナ」と呼んでいます。細く白い花弁は5枚ですが、下の二枚が長く大きいため、どうしてもバレリーナが踊っているように見えるのです。たくさんのバレリーナが群れをなし、風に揺れ、楽しげに踊っています。
大文字草によく似ていますが、よく見ると上の3枚には、ピンクの斑点がついています。奇しくもかさねの色目の雪の下と同じ色の組み合わせになっています。

季節はちょうど寒の入り。紅梅も咲き始めています。これから紅がうっすらと透ける「雪ノ下」が見られるでしょうか。そして夏になったら、ユキノシタの赤い斑点を見つけてみてください。ぐっと目を近づけないと見えない、小さな斑点です。
文責・和暦研究家 高月美樹
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