染織家の吉岡更紗です。私は、京都で200年以上続く染屋「染司よしおか」の六代目で、いにしえから伝わる技法で、植物を中心とした自然界に存在するもので染色をしています。
世界中でも類をみないほど数が多いといわれている、豊かな美しい日本の色。その中から、今月は「柳色(やなぎいろ)」についてご紹介いたします。

染司よしおかの工房の北側には、宇治川という大きな川が流れていて、西に進むと「宇治川派流」という水路があります。元々は、豊臣秀吉が伏見城築城の際に、建築資材を運ぶために作らせたもので、かつて伏見城の外堀であった濠川につながる細い川です。江戸時代以降はこの辺りに作られた伏見港を拠点に、水路を使った交通の要所となり、船で京都と大阪を往来していて、問屋、寺田屋などの宿屋、酒蔵が並びました。
この宇治川派流の両端には、沢山の柳の木が植えられています。この季節、宇治川派流を眺めると、冬に葉の落ちた柳の枝に、次々と淡い黄緑色の若い芽が芽吹き始めていて、心躍る春の訪れを感じさせてくれます。

柳は元々中国原産で、奈良時代に日本に伝わったと言われています。成長が早く、根も地中に広くよく張るため、水の強い流れにも耐えられるところから、奈良の平城京でも、京都の平安京でも、大路や川沿いで植えられたのだそうです。
柳のしなやかさ、細く垂れさがる枝葉の様子から、柳眉、柳腰、柳髪など、女性の美しさを喩える言葉にも使われていました。芽吹き始めた芽は、次第に細長く、角が尖った楕円形の葉となります。葉の表は淡くやや黄味がかかったような緑色ですが、裏は白いのが特徴です。
平安時代の貴族は、薄い緑に、羅(うすもの)と呼ばれるような細い糸で織られた透け感のある生絹(すずし)を重ねたり、または、経糸を淡い緑に染めて、白い緯糸を通し、柳の葉色を表した衣装を身に着けたりしていました。

いにしえの人々は、植物の葉色を表すのに、藍染と刈安や梔子(くちなし)、黄檗(きはだ)、楊桃(やまもも)などの黄色の色素を持つ染料とを掛け合わせてあらわしていました。柳の葉色自体にも少し色素はあるようなのですが、紐解いてみると、柳の葉を使っていたという記録は見当たらず、草木花の色を表すのに、必ずしもその植物を使っていた訳ではないというのが面白いところです。染司よしおかでは、刈安で染めた淡い黄色に、藍を染め重ねて柳の表の葉色を表しています。


例年より一足早い春の到来で、早くも桜の開花も気になるところですが、風に揺れる柳の葉の美しさもぜひ楽しんで頂ければと思います。

吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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