染織家の吉岡更紗です。私は、京都で200年以上続く染屋「染司よしおか」の六代目で、いにしえから伝わる技法で、植物を中心とした自然界に存在するもので染色をしています。
世界中でも類をみないほど数が多いといわれている、豊かな美しい日本の色。その中から、今月は春らしい「山吹色(やまぶきいろ)」についてご紹介したいと思います。
本年は、春の到来が例年より早く、京都では3月中旬に桜開花の一報が入りました。今年はお天気にも恵まれて、朝や日中、夜桜や葉桜も含めて様々な桜の花を楽しむことができました。短い開花ゆえに、私たちは桜の花に魅了されているのかもしれません。桜吹雪や花筏も楽しんだ後に気になるのは、『古今和歌集』に藤原家隆が詠んだ「吉野川岸のやまぶき咲きにけり峯のさくらは散りはてぬらむ」という歌の通り、赤味のある黄色い山吹の花です。
この山吹の花の色について、同じく『古今和歌集』に、素性法師が「山吹の花色衣ぬしたれや問へどこたへず口なしにて」という歌を残しています。解説をしますと、この歌では、山吹の花をふわりと脱ぎかけられた衣に見立てていて、美しい黄色の衣の持ち主は誰なのか、と問いかけますが、返事がありません。
なぜならその山吹の色を出しているのは梔子(くちなし)の実で、だから返事がない(くちなし)という風に「くちなし」という言葉に掛けてこの歌を詠っているのです。その通りに梔子の実を煎じて染めて、その上からわずかに蘇芳の赤を染め重ねると、山吹の花色にふさわしい色となります。
梔子は、夏に良い香りのする白い花を咲かせ、秋の終わりに赤黄色の実がなりますが、実が熟しても裂けないので「口無し」と呼ばれるようになったそうです。その実をお湯に入れて、ぐつぐつとゆっくり煎じていると、花と同じような独特の甘い香りが工房中に漂います。
それを濾して染料とし、布や糸、和紙を染めるのですが、その他に、梔子は漢方薬としても使われています。煎じたものを口にすると、血行促進や熱を下げる効能があると言われていて、その実の粉末を直接ぬると口内炎に効き、酢で練って湿布すると、打撲や捻挫にも効くのだそうです。
また、梔子は栗きんとんや和菓子、沢庵(たくわん)の色付けにも使われていますが、大分県では、おめでたい時に赤飯ならぬ「黄飯」を炊く習慣が残っているそうです。かつて臼杵藩(現在は大分県臼杵市)を治めていた藩主が質素倹約を重んじ、ぜいたくな赤飯の代わりに作らせたものですが、一説ではキリシタン大名であった大友宗麟(おおともそうりん)が、スペインのパエリアを模したのではないか、とも言われています。
当時、南蛮貿易がはじまり、スペインやポルトガルから船が出て、キリスト教伝来と共に、染織品もさることながら食品など様々な南蛮文化が到来していました。パエリアもその一つで、本来であればサフランで黄色をつけますが、サフランも大変高級で手に入りにくいものですので、この地で手に入りやすく、同じく香りの高い梔子で代用されていたのではないかと思います。
吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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