今日の読み物

お買い物

読み物

特集

カート内の商品数:
0
お支払金額合計:
0円(税込)

日本の色/桔梗色ききょういろ

にっぽんのいろ 2025.09.27

この記事を
シェアする
  • X
  • facebook
  • B!
  • LINE

染織家の吉岡更紗です。朱色、紅、古代紫、葡萄色、藍色、萌黄色…日本では古来様々な美しい色の名前がつけられ、伝統色として今も愛されています。今回は、その中から「桔梗色(ききょういろ)」についてご紹介致します。

桔梗色 写真提供:紫紅社

9月も後半に差し掛かっていますが、京都は日中まだまだ夏のような湿度の高い日が続いています。それでも朝晩の気温が下がり、すこしずつ過ごしやすくなってきている気がします。草木をなでるようなやさしい風が心地よいこの季節には、秋草の彩りが目につくようになります。薄(すすき)、萩、葛、撫子(なでしこ)、藤袴、女郎花(おみなえし)などの花々が秋草とされていますが、いずれも可憐な、そよそよとした印象のあるものばかりです。江戸時代に作られた夏用の小袖や浴衣には、これらの秋草のモチーフがよく使われていて、まるで秋風がそこに吹いているような涼やかな雰囲気を感じさせてくれます。

桔梗は根にサポニンを含み咳や痰を鎮める作用があることから、元々は生薬として将来されたそうですが、風に揺れる細い茎に、風船のように丸みのある蕾、そして星型のようなぷっくりとした青紫色の花を咲かせます。
桔梗の花も秋草の1つに数えられていますが。『万葉集』で山上憶良が、

「秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花」
「萩の花 尾花 葛花(くずばな) 撫子の花 女郎花(おみなえし)
また藤袴 朝顔の花」

と続けて二首の歌を詠んでいるのですが、「朝顔の花」は桔梗の花である、というのが定説となっています。当時は朝に咲く花を「朝顔」と呼んでいたそうで、平安時代の漢和字書『新撰字鏡』には、「桔梗、阿佐加保」と書かれています。

桔梗のかさね 写真提供:紫紅社

桔梗の青紫色に咲く花色を「桔梗色」と名付け、平安時代から使われるようになりました。「ききょう」とは発せず当時は「きちかう」と読んでいたそうですが、季節に咲く草木花に添った色合せを好んだ貴族たちに愛された色で、『宇津保物語』や『栄花物語』にその名が登場します。

紫根 写真提供:紫紅社

その花色は、紫根で染め、椿の灰を用いて媒染し、椿の灰の持つアルカリ性によって青みに発色させる方法が考えられますが、江戸時代に刊行された木版色見本『薄様色目』には、桔梗のかさねは「表二藍 裏濃青」と書かれています。二藍は以前こちらでも書かせて頂きましたが、まず藍染めをした後に、紅花で赤色をかさねて、様々な色相の紫を表した色名です。特に平安貴族男性の直衣に用いられていたと言われていますが、やや藍の色が強くなるように染めて、桔梗の花色を表していたのでしょう。

蓼藍の葉 写真提供:吉岡更紗

染色を生業としていると気付くことがあるのですが、1つの染料で表す色と、2つの染料を混ぜるのではなく染め重ねる色があり、後者は、陽の光、月明かりの当たり方、影の具合によって色合いが大きく変化します。

紅花 写真提供:紫紅社

細い茎の上に大きい花を付ける桔梗は、風に揺れながら時には赤み、時には青みの強い紫に見えることがあります。少し透け感のある生絹を着用していた貴族たちは、紫根で染めた紫ではなく(紫根が手に入りにくい染料で、そこから生み出される紫が非常に高貴な色だった、ということも考えられますが)あえて二藍を選んで桔梗の花色をよりリアルに表していたのかもしれません。

この記事を
シェアする
  • X
  • facebook
  • B!
  • LINE

吉岡更紗

染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。

記事一覧

紫のゆかり 吉岡幸雄の色彩界

染司よしおか