染織家の吉岡更紗です。私は京都で200年以上続く染屋「染司よしおか」の六代目で、古法にのっとり、植物を中心とした自然界に存在するもので染色をしております。
世界中でも類をみないほど数が多いといわれている日本の色。
その中から、今月は「二藍(ふたあい)」を取り上げたいと思います。
二藍、と聞くとどのような色なのか、漢字からはなかなか想像しにくいかと思います。藍染を2回する色かしら?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
二藍は、藍染をした青に、紅花の赤を染め重ねた紫系の色のことを言います。その藍染の色の濃さ、紅花の色の濃さとの兼ね合いで無限に様々な色相を表すことができるのですが、その2種類の染料を使って表した色すべてを「二藍」と呼ぶのだそうです。
なぜそのような名前が付いたのかというと、そもそも本来「藍」という言葉が、染料の総称として使われていた、という背景があります。紅花も「紅」の字は「くれない」と呼びますが、日本では中国の呉の国から伝わった染料なので、「呉藍(くれのあい)」と記されていたそうです。2つの染料である藍と紅(くれない)で染める色なので、それがいつしか「二藍」と呼ばれるようになったのです。
平安時代、貴族の男性の日常着である直衣(のうし)の色は、二藍であったと言われています。『枕草子』には「夏などのいと暑きにも、帷子(かたびら)いとあざやかにて、淡二藍(うすふたあい)、青鈍(あおにび)の指貫(さしぬき)など踏みちらして、ゐためり」と書かれていて、その涼やかな色相から、夏の色どりの印象がありますが、1年を通して着用していたようです。また、若い男性ほど、紅花の赤が強い赤紫系の色を着て、年齢をかさねるほど藍が強い青紫系の色相を選んでいたそうです。
『源氏物語』「藤裏葉(ふじのうらば)」の帖では、光源氏の息子の夕霧が、幼いころから親しくしていた雲居の雁(くもいのかり)との仲がようやく認められて、父である内大臣に挨拶に行く場面に二藍が登場します。その際に、光源氏は「直衣こそあまり濃くて軽びためれ。非参議のほど、何となき若人こそ、二藍はよけれ。ひきつくろはむや」と夕霧に言います。「二藍の直衣を着ていくのなら、紅の色が濃いと非参議や官職もまだない若い人に見られかねない。もう少し大人っぽくした方がいいだろう」と諭し、自分の衣装からやや落ち着いた二藍の直衣をあたえます。それを着用し、念入りに身を整えて内大臣に会った夕霧は、晴れて結婚を許されたのです。
五月初旬から、夏のような暑さが続いていますが、この二藍のような爽やかな彩を見ていると、心が少し涼やかになるような気がします。
吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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