立夏 5月5日~19日 4月節〈夏の立つがゆえなり『暦便覧』〉
籠を下げて薬草摘みに
立夏、暦のうえで夏が始まりました。夏の二十四節気は計6節気。立夏に始まり、小満、芒種、夏至、小暑、大暑と進みます。その、夏一番手となる節気の立夏は、まだちょっぴり春の余韻を残しているころ。新緑のみずみずしさが目に染みる、そんな季節です。
木々が新しい葉をひらいたのと同時に、草の新芽も柔らかく出てきています。立夏になるのはちょうど端午の節句と同時期。古代中国では、端午の節句には、野に出て薬草摘みをする習慣がありました。この日に採った薬草には、とりわけ薬効があるのだとか。
たしかに、端午の節句の行事には、日本でも何種もの草木の葉を使います。菖蒲や蓬の葉を軒に吊るしたり、柏の葉でくるんだ柏餅を食べたり。粽(ちまき)は笹の葉でくるんであります。また、菖蒲湯に入る習慣も。
考えてみれば、その草木の葉のどれもが邪気や悪魔を払うと考えられていたのと同時に、薬効のある植物だったのですね。植物が持つエネルギーは、新緑のこの時季にもっとも多く含まれているのでしょう。薬効のある桑の葉茶も、ちょうどこの時季の葉を使うようです。
薬草摘みのときは、持ち手のついた提げ籠と、小さな鎌を携行します。ワサワサ生えている薬草をみつけると、つい気持ちが高揚して採集本能が爆発。鎌を手に、一心に刈り込みます。スギナ、ナズナ、カキドオシなど、うれしい収穫。
摘んだ草は、干して入浴剤にしたり、ハーブティーにしたり、料理に使ったり。それぞれに利用して、初夏の滋養を享受します。
緑滴るこの時季ならではの、自然からの贈り物。ほんの少しだけでもいただいて、体にいいものを摂れますように。身近な草にも様々な薬効のあることを知ると、ますます植物に興味が湧きます。また、面白いなあと思ったのが、江戸時代に刊行された『毒草図鑑』の毒草ラインナップのほとんどが、薬草でもあったことです。毒は薬でもあり、薬は毒でもあるのですね。使う草の部分や量など、摂り方ひとつでどちらにもなると。
まずは様子の分かっている親しみある草を摘んでくることにいたしましょう。では、張り切って籠を提げて行ってきます。
平野恵理子
イラストレーター、エッセイスト
1961年静岡県生まれ。著書に『五十八歳、山の家で猫と暮らす』『歳時記おしながき』『こんな、季節の味ばなし』ほか多数。好きな季節は、季節の変わり目。現在は八ヶ岳南麓在住。
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