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新酒しんしゅ

旬のもの 2020.11.06

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11月を過ぎ、刈り取られた田んぼを眺めると、いよいよ秋の深まりを感じます。古より、収穫されたお米は神様へと供えられ、また後に御神酒として醸されました。

10月頃に酒造りを始める蔵も多く、11月になると、いよいよ、今期最初のお酒を搾りはじめます。

美味しいお酒が出来ますようにという願いが込められ、お酒の神様を祀る奈良・大神神社では、〝酒まつり〟こと「醸造安全祈願祭」が執り行われます。全国から酒造関係者が参列し、今年の酒造りの安全を祈願した後、各酒蔵へ、新しい杉玉が授与されます。

杉玉は1年ごとに取り替える、いわば酒蔵のお守り。大神神社のご神木である杉が、時代を経て酒屋の目印となったことが、杉玉発祥の由縁といわれています。

杉玉は、酒蔵のお守り。

蔵人さんたちも、一年に一度、杉玉を取り替えるときに、より一層、身が引き締まるといいます。杉玉の色が茶色へと変わっていく様で、お酒の熟成度がはかれるともいわれ、酒蔵の軒先に、青々とした新しい杉玉が吊られると、新酒が出来たしるし。この時期、蔵の中は、ピリッとした、とても神聖な雰囲気が漂っているように感じます。

造りの工程では、菌や発酵など、自然の力の神秘に触れる機会も多く、今でも、造りにおいて重要な場所には、必ずと言っていいほど、ご神札が貼ってあるのを見かけます。青々とした杉玉には、今期も酒造りに挑む、蔵人たちの想いや願いが詰まっているのです。

杉の葉は、朝一番に、巫女が境内の杉林で採ってきたもの。

私が巫女をしていた時にも、御神酒を扱う際に、神聖な杉の葉がかかせなかったことを思い出します。ご祈祷を終えた参拝者に御神酒を注ぐ銚子には、杉の葉が麻ひもで括られていました。杉の葉は、朝一番に、巫女が境内の杉林で採ってきたもの。御神酒には、自然の神威が宿っていました。

初槽式(はつふねしき)の様子。

大阪の銘酒「天野酒」醸造元、西條合資会社では、11月に新酒が出来たことを祝って杉玉を掛け替える〝初槽式〟が行われます。数年前、私も初めて見学に訪れました。酒蔵の前に、ずらりと並んだ、真新しい杉玉。何十個とある大小様々な杉玉は、地元の杉を使って住民が手作りしたもの。地元の神主さんによって祝詞があげられると、杜氏並びに蔵人さんたちが祈りを捧げ、最後に杉玉へ、その日搾ったばかりの新酒がかけられます。

ひとつひとつ丁寧に、蔵元さんが祈りのこもった御神酒をかけていきました。清められた杉玉は、製作した各家が持ち帰り、軒先に吊るして、風情ある街道沿いの道しるべとなります。

神事の後、集まっていた人たちには新酒が振る舞われ、街道には、その日一番の笑顔があふれました。

今月のお酒「初しぼり」

いよいよ、しぼりたての新酒が、ちらほらとお目見えする季節。蔵で搾ったばかりのような、フレッシュな味わいが魅力です。「初しぼり」のお酒は、火入れ(加熱殺菌)せずに、生のまま出荷され、とくに今の時期は、今シーズン最初のお酒を搾るとあって、旬の味わいを楽しみに待つファンも多いのです。華やかな香りとともに、口の中で、プチプチと弾けるような爽やかさもあり、ついつい盃が進んでしまいます。しかし飲みやすいからと言ってすいすいと飲んでしまうのは要注意。加水していない原酒のものが多く、それによってアルコール度数も高いものが多いのです。飲むときには和らぎ水をはさみつつ、じっくりと旬の味わいを楽しみたいですね。

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松浦すみれ

ルポ&イラストレーター
京都生まれ。京都の神社で本職の巫女を経て現職。現在、滋賀と京都の二拠点生活。四季折々に酔いしれて、絵と文を綴る日々。著書『日本酒ガールの関西ほろ酔い蔵さんぽ』(コトコト)。
photo:©️NAOKI MATSUDA

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