こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
春って、なんだかソワソワしませんか?
私はものすごくソワソワします。とくに3月中旬を過ぎる頃になると、ソワソワ感がマックスに。
なにがそんなに気になるのかと言えば、それはツバメが日本へ帰って来るからなんです。
私は都市に暮らす鳥が主要な研究対象なので、その代表種であるツバメはいちばん気になる存在。いつ来るかいつ来るかと気もそぞろになるのです。
そんなツバメが、東南アジアの越冬地から子育てのために日本へ帰ってくるのは、2月下旬から4月中旬までの間です。
まず、2月下旬に最初のツバメが南九州に到着します。それからツバメ渡来前線はだんだんと北へ進んでいき、3月中旬から下旬には関東地方に達します。私が住む千葉県北西部では、3月21日から29日の間に毎年決まって姿を見せますので、ソワソワはそこで終わり。そして、4月中旬までには北海道の札幌あたりまで到達します。その様子は南から北へ日本列島にツバメが春を運んでくるかのようです。
ツバメの巣と言えば、日本では建物にあるのをよく見ます。じつはこれが世界標準。世界のどこでもツバメの巣は人工物に造られていて、崖などの自然物に造られている例はまずありません。そのくらい人とは切っても切れない深い関係にある鳥なのです。
人工物に巣を造ると言っても、どこでも良いわけではありません。ツバメにだって都合がありますから、気にいった物件でないと巣造りをしないのです。そして、その傾向は時代によってトレンドみたいなものがあります。
日本では、一昔前は商店街の店舗や鉄道の駅がトレンドでしたが、最近は道の駅と高速道路のサービスエリアが人気物件です。とくに郊外にある施設には、ほとんどと言って良いくらいツバメの巣が見つかります。それも1つや2つではありません。埼玉県のある道の駅には、30~40近くも巣があり、軒下にいくつも並ぶ光景が見られます。
では、どうして道の駅とサービスエリアは人気があるのでしょうか。その理由の1つはトイレがあるからと私は思っています。
皆さんもトイレ休憩で一度は利用したことがあると思いますが、とくに大きな道の駅やサービスエアのトイレは利用客がたくさんいて、常に人の姿があります。人がいれば天敵であるカラスは警戒して近づきません。ツバメはそれを知っていて、トイレやその付近に巣を造るのです。ツバメにとってトイレは安全が保証される一等地。そのため、トイレ付近には多くの巣が集中しています。
安全のために人のすぐそばを選んで生き抜いてきたツバメですが、最近はちょっと人から嫌われてしまうといった場面も見られます。たしかに糞の落とし物は困りますが、かわいくおしゃれな糞よけもありますので、これからも仲良くしてやって欲しいなと思います。ツバメの巣があるということは、それだけ賑わっていることの証でもありますから。
柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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