こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
皆さんは、春の到来をどんなことで感じますか?
私は、空高くから聞こえるヒバリのさえずりと呼ばれる鳴き声を聞いたときに、「ああ、春が来たなあ」と実感します。うららかな日差しのなか、高い空から降るように聞こえるヒバリの賑やかなさえずりは、きっと誰もが春を思うでしょう。まさに春告げ鳥です。
ヒバリは、畑や水田、河川敷などの開けた環境で見られる全長17㎝ほどの小鳥です。日本では北海道、本州、四国、九州に分布し、一年を通して見られますが、雪が積もる地域では冬は食べものの草の種がとれなくなるので姿を消します。日本以外にもヨーロッパからアジアまでのユーラシアや北アフリカなどに生息し、とても広い地域に分布する鳥でもあります。
ヒバリという名前の由来は、「日晴」が転じたという説があります。これはよく晴れた日に鳴き声を聞くことが多いからですが、実際には雨でも鳴くことがあります。また、漢字では「雲雀」と文字をあてます。これは体の色がスズメとよく似ていて、空高く舞うことにちなみます。雲まで届きそうな高い空を飛びながら鳴く習性をじつによく表している名前です。
さて、ヒバリがさえずり始めるのはいつぐらいからと思いますか?
驚いたことに、早いところでは1月末には鳴き始めます。さえずりは気温と相関があることがわかっているので、1月でも暖かい日があると鳴き始める個体がいるのでしょう。
初鳴き地点は、桜前線のように南から次第に北上すると思いますが、実際にはそうならないのが不思議なところです。一番最初に埼玉で鳴き始めたと思ったら、次は岡山、その次は福島だったりして、てんでんばらばらなのです。ただ、全体の傾向としては、1月から2月にかけて西日本や関東で鳴き始め、3月には東北、4月になると北海道で始まる傾向はあるようです。
ところで、ヒバリはどうして飛びながらさえずるのでしょうか。
それは空高くからさえずった方が効果的だからです。なんの効果があるかって? それは宣伝です。
鳥のさえずりは主にオスが発する鳴き声で、「ここは俺の領土だから入ってくるな」という縄張りの周知とつがいとなるメスを呼ぶ二つの働きがあります。ちなみに縄張り防衛をする相手は、ライバルであるヒバリのオス。黙っていると知らないオスが侵入して自分の奥さんを盗られてしまうので、空高くから大々的に宣伝して侵入を防いでいるのです。ときにはなんと100mもの上空からさえずって縄張りを周知します。
ですから、メスとつがいとなって巣作りをし、無事に卵が生まれれば、それほど縄張り宣伝を頑張らなくてもよくなるので、飛ばずに杭などにとまってさえずることが多くなります。きっと「もういっかなあ」という感じなのでしょうね。
私たちにとってはのどかなヒバリの歌声ですが、彼らにとっては子孫を残すための必死の歌声なんですね。
柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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