漬物男子、田中友規です。
関西での水茄子の地位は言わずもがな。
泉州を代表する伝統野菜で、その歴史は室町時代まで遡ります。
残された記録によると、普通の茄子とは別格で、桃やスモモと並んで
そのまま食べられる果物のようなポジションだったそう。
確かに瑞々しくて、一口かじればその爽やかな甘味で、梨のようにも感じる。
甘いものが貴重だった時代には十分なスイーツだったのでしょう。
さすが水茄子先輩。普通の茄子とは目指している世界が違います。
普通の茄子じゃアクがあるから丸かじりはできないもんね、と思った矢先、
はて、茄子は切った後に水にさらしてアクを抜くけれど、そんなにアクってあるものか?
そんな疑問がふと、浮かんできました。
アクといえば取り除くもの、という先入観。でもその正体は一体なんなのでしょう?
アクは、漢字にすると灰汁です。
野菜に灰色の汁とは、なんとも辻褄が合わない気がしてきました。
調べてみると、肉を煮るときに湯面にあがってくる灰色の泡のようなものが出てきますが
その正体はタンパク質やアミノ酸です。熱を加えることで泡のような塊になったものが肉のアク。
むしろ成分としては旨味なので、見た目は良くないですが、ぜんぶ掬い取ってしまう必要は本来ありません。
一方、野菜のアクは、いわゆる苦味や渋味。その威力は半端じゃありません。
「はがぁぁぁ・・・」
アクの抜けていない野菜を口にした瞬間、ビリリと痺れるようなえぐみを味わうことになり、
えも言われぬ声をあげてしまいます。
これらの野菜のえぐみの正体は、シュウ酸というそうです。
シュウ酸は水溶性なので、カルシウムなどを含んだアルカリ性の水で茹でることで、
細胞膜が柔らかくなり、水分中にシュウ酸が散らばっていきます。
ですからたっぷりの水から茹でたほうが、よりえぐみが分散して滲み出やすいのです。
また、灰の汁と書くアクは、本来は藁や木の灰を水に浸して一晩置き、上澄みをすくったアルカリ性の液体のことで、むしろ渋みを取る側だ。どこで意味が変わってしまったのかは分からないが、このアルカリ水は、沖縄そばや、長崎ちゃんぽんといったコシの強い麺作りには欠かせない、鹹水(かんすい)とも呼ばれるのである。
肉のアク、野菜のアク、そしてアルカリ性の水の灰汁。
同じ名前でも、まったく別物ではないか!
アクの強いタケノコは、収穫してすぐにえぐみが増え始めるため、「タケノコは収穫前に湯を沸かせ」と言われるくらい、すぐに味が変わってしまいます。
米糠(こめぬか)にはカルシウム成分が含まれており、科学的な証明なしに古来よりずっとこの方法でアク抜きが行われているのは、まさに食の営みの知恵。
それにしても、野菜たちはなんでこんなにえぐみを蓄えているのか。
答えはシンプル、動物に新芽を食べられないように身を守っているんだそうです。
なんとか美味しく食べてやろうという人間に対して、
動けない植物の唯一の抵抗が、アクによる渋味攻撃だったとは。
そんな大自然のメカニズムの不思議に思いを馳せていたところ、
小一時間で、ちょうどよく水茄子の漬物ができました。
去年の梅仕事で残っていた赤紫蘇と一緒です。
ぎゅ、ぎゅ、と茄子を噛み締めてよく味わいます。
うん、水茄子にはアクがない。ぼくら人間への優しさが伝わってきます。
時には優しくない野菜に出くわすこともありますので、アクにはご注意を。
まだまだ自然と人間の知恵比べは続きそうです。
田中友規
料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。
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