中医学での“痛み”には、何らかのつまりで起きる「不通則痛(ふつうそくつう)」と、必要な栄養分が足りなくて起きる「不栄則痛(ふえいそくつう)」というものがあります。こと頭痛に関しては、詰まりが必ず存在していると考えるので、不通則痛による痛みとして考えていきます。
具体的には、血行が悪くなって生じる「瘀血(おけつ)」、水分代謝の低下によって起きる「痰湿(たんしつ)」、外の風や冷え、高い気温や湿気による「邪気(じゃき・体に害をもたらす自然変化)」が体内をめぐる気血を邪魔することによって起きるというものです。気血の不足によって起きる痛みの場合も、足りない気血を補いつつ、邪魔している上記のなにかを取り去りながら、めぐりを良くする対策が頭痛の対策では重要になります。
痛みの原因によるタイプ分け
頭痛は、大きく外からの影響による①「外感頭痛(がいかんずつう)」と体の内からおこる②「内傷頭痛(ないしょうずつう)」に分けられます。
①外感頭痛(がいかんずつう)
外感頭痛は、冷たい風にあたったことによる「風寒頭痛」、熱感を伴う「風熱頭痛」、高い湿度による「風湿頭痛」があります。全てに「風」がついているのは、ほとんどの邪気は、風に連れられて体内に侵入してくるからです。
②内傷頭痛(ないしょうずつう)
内傷頭痛では、急性ストレスや高熱などが体内で火となり燃え盛り、頭を犯す「肝火上炎(かんかじょうえん)」、胃腸機能低下に伴って気血が不足した、または不要物が停滞した事による「脾虚不運(ひきょふうん)」、過労や加齢に伴い五臓の腎が弱ることによる「腎虚(じんきょ)」、そして、外感頭痛や内傷頭痛が長期化したこと、もしくは外傷によって生じた「瘀血(おけつ・どろどろと流れにくい血や血流障害)」によるものなどがあります。
この中で脾虚不運にはさらに、気虚頭痛と血虚頭痛、そして痰濁頭痛に別れます。
①外感頭痛(がいかんずつう)の特徴と対策処方
それぞれの特徴を見てみましょう。まずは外感頭痛です。外感頭痛は、急性期の症状なので、普段から頭痛がない人でも特定の条件下で起こりえます。症状は比較的短く治りやすいです。
「風寒頭痛」では、首から後肩部による筋肉のこわばりや関節の痛みが特徴で、くしゃみや鼻水を伴います。寒さにあたって風をひいたときなどの頭痛です。この場合は、冷えを散らして頭痛を治していきますので、川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)という処方がつかわれますが、葛根湯でも代用できます。熱いお湯に溶かして飲みましょう。
「風熱頭痛」では、熱っぽく張ったような痛みを感じます。発熱、喉の痛み、口の乾き、目の充血などの症状を併発します。この場合は、風による熱を散らす、銀翹散(ぎんぎょうさん)が良いでしょう。ぬるま湯か常温の水で飲みましょう。
「風湿頭痛」の場合は、頭が重く包み込まれるような頭痛がします。手足が重だるい、体や頭が重い、食欲不振なども同時に見られます。湿気を散らす藿香正気散(かっこうしょうきさん)がよいでしょう。藿香正気散は、勝湿顆粒(しょうしつかりゅう)という名前でも市販されています。
なお、外感頭痛に関してはできるだけ早く対処することが重要なので、なりやすいパターンを把握し、すぐ飲めるよう準備しておきましょう。
外感頭痛の養生では、寒暖差に気をつけて、風から身を守るように素肌をさらさないようにすること。かいた汗はすぐに拭き取ること、除湿機などを使うことなどがあげられます。しっかり睡眠をとることも、体を護る力をつけることに役立つので、日々の生活に気をつけましょう。
②内傷頭痛(ないしょうずつう)の特徴と対策処方
次に内傷頭痛です。内傷頭痛は急性ではなく、体の状態によって発症しているので、中長期的な対策が必要です。
脾虚不運(ひきょふうん)の頭痛の中に入る「気虚頭痛」では、疲れたときに頭痛が悪化するのが特徴です。食欲不振、息切れ、倦怠感などの症状が見られます。この場合は、胃腸を整えて気を補う補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が使われています。
同じく脾虚不運(ひきょふうん)の頭痛で、血が不足した場合に起きる「血虚頭痛」ですが、症状の特徴は、めまい、頭のふらつき、動悸、不眠、顔の血色が悪いなどが見られます。血を補う人参養栄湯(にんじようえいとう)や婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)などを使います。痛みが強いときは、詰まりを改善するのに加味逍遥散(かみしょうようさん)を併用しても良いでしょう。
「腎虚(じんきょ)」による頭痛は、慢性化した痛みで、めまいや耳鳴り、手足の冷え、足腰のだるさなどがみられます。八味地黄丸(はちみじおうがん)や海馬補腎丸(かいばほじんがん)といった腎を補い温める処方のほか、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)という体を内から温める処方も使います。ただし、風熱の症状のように、熱感がある発熱しているなどの方には、この処方では温める力が強いので使わないようにしましょう。
急性ストレスや発熱で起きる「肝火上炎(かんかじょうえん)」の頭痛では、熱感、口の苦味、眼の充血、大きい耳鳴り、喉の乾き、便秘などが見られます。この場合は、熱を冷ましてくれる、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)や釣藤散(ちょうとうさん)を使います。
肝火はストレスが強く、イライラしやすい人におこるので、普段から気のめぐりを整えて、熱を冷ます加味逍遥散などを使用して肝火が起きないようにしておくのも一つの手です。
「痰濁頭痛」では、胃腸機能低下に伴う水分代謝異常から生まれる痰湿が気血のめぐりを邪魔して起きます。しつこく長引く頭痛で、めまい、胸苦しさ、吐き気などを伴います。胃腸を整えて水はけを良くする対策が必要です。こういう場合は、半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)や、竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう)をつかいます。半夏白朮天麻湯は、胃腸が弱って頭痛やめまいがするときなどに適しており、竹筎温胆湯は、頭痛に食欲不振、吐き気などが起きるときに使います。
「瘀血(おけつ)」による頭痛は、痛む部位がはっきりしており、激しい痛みを感じます。桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や冠元顆粒(かんげんかりゅう)といった血流改善の漢方をつかっていきます。
内傷頭痛の養生では、気血が不足の頭痛や痰濁による頭痛では、胃腸を整える食習慣を意識すること。具体的には、油っこくて味の濃いもの、甘いお菓子、冷たいジュースやアイス、サラダやお刺身などの生モノ、そして過剰な水分を取りすぎないようにし、温かく消化に良い食事を心がけるようにしましょう。腎虚の対策は、過労や過度な性生活をさけ、足腰を冷やさないようにしましょう。特に真夏の屋外以外では足首をさらさないなど、足の冷えには注意してくださいね。肝火による頭痛は、ストレス対策を。何か楽しいことに打ち込める時間を作る、自然に触れるなどを試してみてください。瘀血は血行不良なので、ストレッチをしっかりしましょう。
頭痛は食品で対応するのがなかなか難しい症状ですので、今回は漢方処方をあげてみました。漢方はどれもが医薬品ですので、服用の際には専門家にアドバイスを貰ってください。また体の状態により必要な漢方薬は変わります。上記以外の要因でも起こりえますので、その場合も専門家に相談して対策を進めてみてくださいね。
櫻井大典
国際中医専門員・漢方専門家
北海道出身。好きな季節は、雪がふる冬。真っ白な世界、匂いも音も感じない世界が好きです。冬は雪があったほうが好きです。SNSにて日々発信される優しくわかりやすい養生情報は、これまでの漢方のイメージを払拭し、老若男女を問わず人気に。著書『まいにち漢方 体と心をいたわる365のコツ』 (ナツメ社)、『つぶやき養生』(幻冬舎)など。
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