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ツワブキ

旬のもの 2021.11.30

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こんにちは、俳人の森乃おとです。
12月を目前に控え、寒さが厳しさを増してきました。花が少なくなるこの時期に、やがて来る春を約束するかのように、ツワブキがいち早く黄色い花を咲かせています。目立たないようでいて、心に残る冬の花です。

暖かい海岸地帯に自生

ツワブキはキク科ツワブキ属の常緑多年草です。東北南部以南の本州、四国、九州と朝鮮半島南部、台湾、中国南東部の暖かい海岸地帯に自生しています。
葉の形は、同じキク科のフキ(フキ属)に似て円く、直径20㎝ほど。地中に太い根茎があり、そこから長い葉柄のついた葉が地上に出てきます。

ツワブキの葉は、水分の蒸散を防ぐための厚いクチクラ層に覆われているので、すべすべして硬く、艶があります。これは、ツバキなどの葉と同様です。
そのため、艶葉蕗(つやばぶき)、厚葉蕗(あつばぶき)などと呼ばれ、それが縮まってツワブキという和名になったとされます。石蕗(つわぶき)という漢字表記は、海岸の崖などによく生えているために生まれたそうです。

日本美の「侘び・寂び」を感じさせる花

ツワブキの開花期は10~12月。高さ20~50㎝の花茎を伸ばし、枝分かれした先に、径3㎝ほどの黄色い頭花(とうか)を数個から十数個ずつつけます。
なぜわざわざ「頭花」と書くかというと、キク科の花は、1個の花のように見えるものが、実はたくさんの独立した小花の集まりだからです。

ツワブキでは、外側の花びらに見えるのが、舌のような形にくっついた合弁花(舌状花)、中心部の黄色い膨らみは、やはり筒状の合弁花(筒状花)の集まりです。それで、1個の花のように見える集まりは、全体として頭状花序(とうじょうかじょ)、略して頭花と呼ばれます。
舌状花も筒状花もそれぞれ受粉し、薄茶色の綿毛(冠毛)がついた種子をつくり、風に飛ばします。

ツワブキの花の黄は、ナノハナやタンポポ、ヒマワリのように、世界を黄色い光の中に包み込む華やかさは持っていません。それでも、寒さの厳しい冬の日に、ツワブキの花の少し濁りのある黄色は、ほんのりと人々を温めてくれます。
日本文化の神髄とされる「侘び・寂び」を体現したような色です。

江戸時代に愛された古典園芸植物

ツワブキの葉柄の佃煮が「きゃらぶき(伽羅蕗)」です。独特の苦味が食欲をそそります。
また、解毒作用が強いので、さまざまな民間治療薬に用いられてきました。

常緑の葉だけでも見応えがあるし、花の風情も味わいがあるというわけで、本来、海岸の植物だったツワブキは、競って庭に植えられるようになりました。
古典園芸植物の一つで、江戸時代には品種改良ブームが起きました。黄金色の斑(ふ)入りの葉や、縮れた葉の品種が生み出され、花も八重咲きや、朱色、クリーム色などとカラフルになりました。
また、あまり知られていませんが、ツワブキの花には深い芳香があります。バニラの香りと表現する人もいます。

花言葉は「謙譲」「困難に負けない」

ツワブキの花言葉は「謙譲」「困難に負けない」。「謙譲」は日の当たらない場所でもけなげに咲いていることから。「困難に負けない」は、厳しい冬季に他の花に先駆けて花をつけることから生まれました。

さてツワブキは、俳句の世界では冬の季語です。俳人・三橋鷹女(みつはし・たかじょ/1899―1972年)が詠んだ「つはぶきは だんまりの花 嫌ひな花」という句は有名です。鷹女は、冬日の中で健気に花開くツワブキの様子を「だんまり」と表現し、「嫌い」と言い切ります。

「鞦韆(しゅうせん)は 漕ぐべし 愛は奪ふべし」と詠んでいる俳人は、控え目で寡黙でありながらも自己主張は意外に強いツワブキに反発を覚えたのでしょうか。
ツワブキのしたたかな強さに対するオマージュとも言え、逆説的にその魅力を伝えています。
ツワブキは日本から英国に渡り、「困難に負けない」ことから「愛は甦る」という花言葉も派生しました。

※鞦韆=ブランコ

ツワブキ(石蕗)

学名Farfugium japonicum 
英名Leopard plant 
キク科ツワブキ属の常緑多年草。日本はじめ東アジアの温暖な海岸地帯に自生。開花期は10~12月。食用、薬用として利用され、観賞用としても栽培される。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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