こんにちは。料理人の庄本彩美です。
京都の西陣で、季節を感じられるようなお弁当作成やケータリングをしております。この度暦生活さんとのご縁をいただき、文章を書くということに挑戦してみます。
季節や旬の野菜を目の前にする時に蘇る、子どもの頃の思い出や日々の料理のことについて書き綴ってみようと思います。
昼間の陽の光か微かに和らぎ「ホー、ホケッ??」という中途半端なウグイスの声を聞くと、父の山菜採りに付いて行ったことを思い出す。
竹やぶまでの長い小道、さらさらと流れる小川、木々の隙間を縫う光......
山の風景はどれを取っても異世界のように感じられた。この世界で遊ぶことが大好きだった。
山菜取りの手伝いは好きだったが、実は山菜の味は苦手だった。
「あんなに苦いものをわざわざ山にまで採りに行くのはどうしてだろう」と理解ができなかった。
久々に帰省した日、私は父と山に向かった。地元を離れ、京都に移り住んで随分長いので小学生ぶりだろか。今回は蕗(ふき)を採りに行きたくて、私からお願いして山へ来た。
竹やぶの足元には蕗の群生地があった。笹の落ち葉を掻き分けて緑の葉柄をせっせと伸ばし、大小くりっとした丸い葉を広げている。
これをどう食べようかとあれこれ思いを巡らせてしまう辺り、立派な食いしん坊になったなと思う。
私は鎌を持って、片手いっぱいに蕗を採ってまわった。
蕗を食べるようになったのは、料理へ興味を持ち始めてから。
色々な本を読み漁るうち
「旬の食材は人間がその季節に必要としている栄養素や働きかける力を持つ」ということを知った。
新芽や土の香りのする春の食材は栄養価が高い。
また山菜の苦味には、冬に貯めた不要なものの解毒を促す力があるという。
あの苦味は、食材たちが「春が来たよ」と私の体へ語りかけているのだと知り、はっとした。
一方的に耳を塞いでいた自分がいた。
思えば母は、蕗を油で炒めて砂糖と醤油で甘辛くしたきんぴらをよく作ってくれた。工夫して、子どもの私でも食べやすいように料理をしてくれていたのだろう。
ほろ苦い味が春の思い出となって私の中に残っていたのは、母が料理をしてくれたから。
そんなことに気がついた時、もっと旬の食材を楽しんでみようと思えるようになった。
採ってきた蕗はきれいな若葉色をしている。根元の辺りの赤みがかったグラテーションも可愛らしい。包丁で長さを切り揃えると、蕗のやる気が整ったようにも見えた。
蕗に塩をまぶして、まな板にコロコロと擦り付けて板ずりをする。若くて細いものを選んだので、アクも少なくほとんど筋を取る必要もなさそうだ。
蕗を沸騰したお湯に入れると、淡く透き通るような緑色へとさっと変わった。色と食感が変わるのは一瞬なので、鍋から目を離してはならない。
油抜きをして切ったお揚げを、砂糖と酒で味付けをした出汁の中へ入れ煮含めたら、3cm程度に切った蕗をそっと入れ、醤油を足して火を止める。
今日の夜ごはんは「お揚げと蕗の含め煮」
ちょっと大人の味だ。
夕方食卓に出すころには、丁度いいしゅみ具合になっているだろう。
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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