はじめまして。写真家の仁科勝介です。
春が近づくと、かつての旅を思い出します。旅を終えたのは2年前ですが、大学生のとき、日本の全1741市町村を巡りました。大学1年生の終わりにプランを練りはじめ、大学2年生、3年生の2年間は授業とバイトに明け暮れ、大学3年生の終わり、3月からスーパーカブに乗ってこの国のどこかへ飛び出したわけです。
旅を始める前、『ふるさとの手帖』というサイトを立ち上げました。のちに、ぼくにとって大きな意味を持った旅ブログのようなものです。
なぜ大きな意味を持ったのかというと、サイトに日本の全市町村の写真が集まったことで、旅を知ってもらうきっかけになり、さらに、刊行させていただいた写真集(紀行集とも言えます)の題名も『ふるさとの手帖』となったからでした。
旅、春、サイト。合わせて何を言いたいのかというと、サイトの制作には半年ほどかかりましたが、たったひとつ、「サイトの公開日は、2月4日の立春にする」ということだけ、事前に決めていたのでした。
暦の上での、春のはじまりだから。と、ひと言でまとめるのは簡単です。ひと言ならそう答えます。ですが、ぼくにとってこの日はもっともっと、大きな荷物と風呂敷を背負ったような気持ちで、希望を託したと記憶しているのです。
ひとつに、市町村一周の旅は実現不可能なのではないか、という一抹の不安がどうしても消えませんでした(旅の実例はほとんどありませんでした)。また、大学生活3年間の2/3を旅の準備に費やして良かったのか、まるで分からなかったのでした。
つまり、当時のぼくにとってサイトの公開日は、長い時間をかけて準備した気持ちと、もしかしたら実現不可能で、人に笑われるかもしれない旅への覚悟を、堂々と肉声で宣言する、最初の日。それにはとても大きなエネルギーが必要だったのです。そして、それを表現できる日は、2月4日の立春以外、考えられませんでした。
立春にサイトを公開し、いよいよ翌月末に旅を始めて、初日に全治3ヶ月の怪我を負いましたが、2年かけてなんとか無事に、旅を終えました。最後まで気持ちが折れなかったのは、旅の希望を春に重ねて託したから、だけではないでしょうが、春を心の軸にしたことは、旅の大きな原動力でした。期待と不安を抱えていたぼくは、たしかにこのとき強く、春を信じたのです。梅は咲くはずだ、と。
春がはじまります。北海道のある島では「行者ニンニクの芽を見つけたら春」、鹿児島県のある島では「新任の先生が空港に到着したら春」と教わりました。みなさんにとって、身近な春はありますか。ぼくは今年、近所のちいさな春であっても「春だね〜」と、景色たちに声をかけようと思っています。素直に喜びたいですし、明るくあたたかな陽光を、心に蓄えたいのです。
空に背伸びして、「よしっ」とひと言呟いて、ぼくは今年も春というイメージを鵜呑みにします。それは旅を経て、春というエネルギーを信じているからです。
写真:仁科勝介
仁科勝介
写真家
1996年岡山県生まれ。広島大学経済学部卒。2018年3月に市町村一周の旅を始め、2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。2020年の8月には旅の記録をまとめた本、「ふるさとの手帖」(KADOKAWA)を出版。好きな季節は絞りきれませんが、特に好きな日は、立春です。
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