染司よしおか六代目・染織家の吉岡更紗です。私共は、古法にのっとり、植物を中心とした自然界に存在するもので染色しています。季節によって染色に適した染料が変わったり、寺社の行事に合わせて染色をしたり、この仕事はまるで歳時記のようだと感じています。世界中でも類をみないほど数が多いといわれている日本の色。その中から、今月は「黄櫨染(こうろぜん)」を取り上げたいと思います。

染織に携わる人間として、古より伝わる色やその色を生み出す材料を知るために、必ず読む資料があり、その1つが『延喜式(えんぎしき)』です。『延喜式』とは、平安時代に編纂された律令の施行細則をまとめたものですが、宮中の衣服などを司った役所「縫殿寮(ぬいどのりょう)」について書かれている巻があり、その中に「雑染用度(くさぐさのそめようど)」という項目があります。

ここには、天皇をはじめとする宮中の方々の衣服をつくるにあたり、その色に染めるために必要とされる染料や、色を定着させる媒染剤、燃料となる薪などの量が記されています。
「雑染用度」に記されている色は三十数種ありますが、その中で最初に記された色が「黄櫨染」です。令和元年10月22日にご即位された今上天皇が、「即位礼正殿の儀」でお召しになっていたのも記憶に新しいかと思いますが、天皇のみに着用が許された禁色(きんじき)とされています。
「雑染用度」には、「黄櫨綾一疋、櫨十四斤、蘇芳十一斤、酢二升、灰三斛、薪八荷」と記されており、綾一疋(約22m)を染めるのに、染料として櫨(はぜ)と蘇芳(すおう)が必要ということがわかります。

ウルシ科である櫨の木の幹を切ると、中心部に黄色の色素が含まれています。そこを切り出して染料として煎じます。煎じた染液に布や糸を入れて染め、灰とあるのはおそらく椿灰だと思われますが、その灰からとった灰汁(あく)に染めた布や糸を入れて美しい黄色に発色、定着させます。この作業を繰り返して、鮮やかな黄色に染めたあと、次は蘇芳を使って染めていきます。

蘇芳はあまり馴染みのない植物かもしれません。マレー半島やインド南部など熱帯、亜熱帯に分布するマメ科の樹木で、こちらも木の中心に赤い色素をもっています。日本では生育しないため、古くから輸入して使っていました。櫨の黄色と蘇芳の赤を掛け合わせた黄櫨染の色は輝くような黄赤です。


『山堂肆考(さんどうしこう)』に、「天子、袍衫皆用赤黄」とあり、中国では皇帝が中央を治める役割を果たし、輝くように光照らす色を身に着けていました。それに倣い、やがて日本でも嵯峨天皇以降、黄櫨染は天皇だけが着用できる色となりました。時代や、お召しになる天皇の年齢によって、櫨の黄色と蘇芳の赤の色合いを調整したといわれていますが、太陽の光が当たると更に輝きを放つ、神々しい色です。

吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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